第11話
「合同訓練?」
そのことを告げられたのは、学が毎朝の訓練のときだった。
相変わらずシャロから一本も取れない学が地面に倒れながら言った。
「はい、一週間後に一週間行うそうです」
「それって白百合さんと天月が行くやつじゃなかったのか」
「その通りなのですが・・・勇者様がですね」
「あ?」
「『いい機会だ。訓練場に全く来ていない北野にも僕たちがどれだけ頑張っているのかを見てもらおう。もう一度どれだけあいつが足手まといになっているかわかってもらうために」だそうです」
「・・・」
ここまでくるともうなんか笑うしかないなと思う学。
「勇者様の力は強力ですからね。オルグ様も国王様もよいしょ状態なので」
「だろうなあ」
「というわけで、合同訓練もとい遠征に学様も必ず参加するようにとのことです」
「拒否権は?」
「ないです」
「・・・分かった。でも、そうなると明日から休まないとな」
「・・・明日からですか?」
私の話を聞いていなかったのでしょうかという反応を見せるシャロ。
「大丈夫だよ、しっかりと聞いてた」
シャロの反応に気付いた学は起き上がりながら苦笑いでそう言う。
しかし、その表情はすぐに変わり、笑みを浮かべる。
「言われっぱなしはさすがに悔しいからな。やることは山ほどある」
「・・・なるほど」
「おう!じゃあ、まずは店の人たちに休みもらいに行くか!」
そして、訓練場の裏から移動しようとする学。
がし。
しかし、腕を捕まれる学。
捕まえたシャロはこう言うのだった。
「まだ朝練は終わっていませんよ」
「・・・ですよねー」
また学が倒れるまで朝練は続いたのであった。
そして、時間は流れ、学たちは『風見鶏の宿』にいた。
いつも通りの賑わいを見せる宿内。
学はいつも通り厨房で料理を作っていた。
見渡す限りの活気の良さやハンスやケイナの様子は明るい。
(これなら大丈夫かな)
もちろん、落ち着いてから言いたいのはやまやまだったのだが、最近では次の仕事に行くときも、そのままの賑わいが続くようになっていた。
なぜなら、ハンスが学に料理を教わっていたから。
時間は限られていたが、学が料理している姿を見ながら、少しずつ学には及ばないが、店で出せるレベルのメニューを作れるようになっていたのだ。
その関係もあって、店の移動前に長話するわけにもいかないと学は思っていたのだ。
そして、賑わいはあるが注文が落ち着いてくるのを待っていたのだ。
このタイミングなら大丈夫だろうと。
そう思い、学は、ハンスに声をかける。
「ハンスさん」
「おう!なんだ、学!そろそろ移動の時間か!」
「あ、いえ」
「ん?」
「2週間ほど休みを頂けないでしょうか」
パリン。
「え?」
ガラスの割れるような音に驚く学。しかし、それよりもおかしいことに気付く。
そうグラスの音だ。最近賑わいもあってグラスを落とすこともたまにあった。
だが、周りの喧騒に飲まれ、こんなにはっきり聞こえることはなかったのだ。
つまり、その賑わい消えている。
(え?なんでこんなに静かになってんだ?)
ハンスは固まっている。
それに、辺りを見回すと宿の中は静まり返っており、その視線は学に集まっている。
シャロが冷たい目線を学に送っているように見えるが、学はスルーする。
「今なんて言った?学??」
固まっていたハンスがやっと口を開く。
「え、あの休みを頂きたいと」
「・・・いつ?」
「あ、明日から2週間ほど・・・」
「・・・俺たちのところの仕事だけか?」
「い、いや、他の店も。今日言いに行くつもり」
「・・・!だ・・・」
「だ?」
「「「「「「「「「大事件だーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」
「えええ?!!」
宿中がそう叫んだのであった。
「どういうことだ、がきゅ?!!!どうした???!お前が仕事を休むだなんて?!!!」
「事件だ!!!おい!!!誰か!ゲンさんとセイの姉御呼んで来い!!!」
「俺に任せろ!!!ハンスさんは今無理だろうから崩れ落ちたケイナさんを誰かみてやってくれ!!」
「だ、だれか・・・私の代わりに奥様達にこのことを伝えて・・・ぐふ」
「「「ケイナさーん!!!」」」
「おい!ギルマスにも報告だ!!」
「え?!なんでだ!」
「ギルマス達仕事の合間にここにきてんだよ!!学の料理とつまみ、デザート食べにこっそりとな!俺らの何人かにはばれてるがな!!」
「まさか・・・最近ギルマス達が上機嫌なのは・・・」
「そういうことだ!!!」
「お、おれ!言ってくる!!!」
「俺らの楽しみガアアアアアアアアアア!!」
「私たちのケーキぃぃぃ!」
地獄絵図だった。
「な、なにこれ」
唖然とする学。学は自分の一言でこんなことになると思っていなかった。
少し後ずさりして後ろに下がる。
そして、シャロに助けを求めようとするが。
がしっ!!
その前に思いっきり肩をつかまれる学。
「どういうことか説明してもらおうか?」
「・・・」
あれ?この展開今日二回目じゃね?
軽く現実逃避してそう思う学だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます