第10話

 聖女様とメイドたちのお茶会が行われている中、学は自室にいた。

 学の目の前には大量のつまようじが筒に入っている。

 どの楊枝も一寸の狂いなく同じものだ。

 そう一寸の狂いもない。

 しかし、ここで追記しておくと、この世界にはつまようじは存在していなかった。

 要するにこれを作ったのは学ということになるが、

「よし、これで2万本目」

 散らばっているつまようじも含め、学の言った本数はこの夜に簡単に作れるものではない。

 では、なぜこんなにも多くのつまようじが存在しているか。

 それは学のスキルによるものだった。


 鑑定技師・・・一度見たことがあるものは材料があれば視覚内であれば作れるようになるもの。ものを鑑定し、作ることのできるものは思い浮かべることで材料を確認でき、生成できる。


 このスキルの発動条件は簡単だ。

「木の枝はっと・・・まだあるな。よしこのサイズで作れる楊枝の数は」

 まず、自分の視覚内に対象のものを置き、その対象を確認する。

 すると、


 木の枝

 →つまようじ2000本分(最大同時製作可能1000本)


(やっと1000本か)

 視覚内にこのように制作したいものを確認することができる。

 そして、

「『クリエイト』」

 学がその言葉を言うと同時に木の枝の周りに魔法陣が発生する。

 その魔法陣から発生する光が木の枝を包みこむ。

 するとそこには短くなった木の枝とつまようじが100本置かれていた。

「よし、いい感じだな」

 このように素材さえあれば作ることができる。

 要するに生産スキルだ。

 一見するとこのスキルは既存のスキルである錬成、生成などと似たようなスキル。

 生産スキルの上位互換と言っていいだろう。

 だが、

(1回ごとに5分のインターバルが必要なんだよなあ)

 このインターバルがあるのだ。

 作れるものには制限があり、無理に発動しようとすると激しい頭痛か吐き気が起きるというリスクを伴う。

 最初はもっとインターバルが必要であった。

 しかも、

(つまようじすら1回で1本が限界だったんだよなあ)

 学はしみじみ最初のころにこのスキルを発動した時のことを思い出す。

「最初木剣作ろうとしたら死ぬかと思ったなあ・・・」

「いかがなさいましたか?」

「うお?!」

「・・・そんなにびっくりしなくても」

「・・・なんだ、シャロか」

 ぼーっとつぶやいた学に答えるように背後にいたのはいつもと変わらないシャロだった。

「なんだとはなんですか」

「女子会はいいのか?」

「女子会?」

「白百合さんとメイドの何人かでお茶会やってんだろ?」

 シャロの方を少し見てすぐにつまようじを片付け始める。

 それを見たシャロも散らばっている木の枝を集める。

「ああ、今さっき終わったのですよ。明日、姫花様早いそうですから」

「クッキーとマカロンどうだった?」

「好評でした」

 特に何も頼んではいないのだが、お互いに何をしてほしいのかわかったかのように動く二人。

 そのせいなのか、扉の向こうから「え?なにあれ、羨ましい!」みたいな聖女様と似たような声が聞こえるが、勘違いだろう。

「そりゃよかった。つか、なんで明日早いんだ?」

「気になりますか?」

「一応な」

「姫花様だからですか?」

 ガタガタ!

 扉の奥で何か音が鳴ったような気がするが、気のせいだ。

 決して聖女様が荒ぶったわけではない。

「ああ?なんでそんなこと聞くんだよ」

「いえいえ、少し気になったもので」

「・・・そりゃな」

 バターンー!!!!

「・・・今なんか倒れたか?」

「大丈夫ですよ」

 乙女がストレート喰らっただけですからというのをぐっとこらえるシャロ。

 何か知ってそうだと思い、学はシャロを見るが、もちろん表情は読めない。

「・・・いいか」

 学はシャロが大丈夫だというんだから大丈夫だろうと片づけを続ける。

 後ろを向いた学はつまようじの本数を数える。

 すると、まださっきまで作っていた本数にあきらかに足りないことに気付く。

「なあ、シャロ。お前の集めたやつどこ」

 そう言って後ろを振り返った瞬間。


「あ、てがすべったー」


 学の真上につまようじの入った木の箱が宙を舞っていた。


「!!」

 宙を舞っているつまようじの箱は5箱。3000本のつまようじと木の箱が宙を舞う。

 このままでは、散らばったつまようじが学に直撃するだろう。


「『クリエイト』」

 だが、そうはならなかった。空中で舞っていたつまようじは空中に現れた魔法陣に吸い込まれた。

 カコン。

 そして、そこから出てきたのは木の棒だった。木の棒はそのまま学の上に落ちていくが、

「よっと」

 ぱしっという音とともに学はその棒をキャッチする。

「あぶねえな」

「すみません」

 学はつまようじを投げた張本人を見る。

 その張本人は相変わらずのクールフェイス。

「わざとだろ」

「いえいえ。メイドがそんなことするわけないじゃないですか。申し訳ありません、少し疲れていたようです」

「・・・」

「ふふ、本当ですよ。ああ・・・まさか疑っておられるのですか?」

「いやだって・・・」

「よよよ・・・私を疑うなんて・・・こんなにも尽くしているのに」

 言葉上では悲しんでいるように思えるが、表情がまったくそんな感じではない。

 だが、いつもこんな感じなのでまったく読むことができないと思う学。

「・・・分かったよ。うっかり滑ったんだよな」

「はい。さすが学様、物分かりがよろしいですね」

「一言多い」

「失礼しました」

「・・・まあ、いつも振り回してるから」

「え?」

「ついつい仕事が楽しいから毎日こんな生活してるけれど、それについていかないシャロは大変だろう。疲れるのも当たり前だ」

「・・・」

 そうではないのですがと言いたいシャロだが、言うとややこしくなりそうだから言うのをやめる。

 それを肯定と受け取ったのか、学は申し訳なさそうにして、

「いつもありがとな」

 と言った。

「・・・いえ・・・」

「まあ、今の仕事はやめたくないしさ。今後ともよろしくな。あ、疲れてんならハーブティー持っていけよ。今日町でもらったんだ」

「・・・はい。ありがとうございます。では、それを持って今日は自室に戻りますね」

「おう、ほらよ」

「はい。では、おやすみなさい、学様」

「おう、おやすみ、シャロ」

 そうして、シャロは学の部屋から出る。

 一人になった学は、

「・・・もう少し練習するか」

 なにを思ったのか、また、スキルの練習に励むのであった。




「よかったですね~」

「・・・何がですか」

「あんたねー本当はわかってるくせにごまかすのやめなさいよ」

 部屋を出たシャロと歩いているのは、お茶会で解散したはずのメリイとアリアであった。それにアリアの背中には姫花が寝ていた。

 実はお茶会の後、シャロが学のところに行くということを聞いてついてきたのだった。

 おかげで、姫花は倒れたわけだが。

 そんなアリアたちは最後のセリフまでばっちり聞いていた。

「あんなことを言える学様っていいわね。姫花様が惚れるものわかるわー」

「試そうとしたこと申し訳ないくらいよね~」

「・・・本当ですよ」

 先ほどのあれはシャロの差し金ではなかった。

 学のスキルがどれだけのものか確認するためにメリイとアリアが提案したものだった。

「あのスキルは~」

「かなりやばいわよね」

「ですよね~」

「今のところどの大きさまでなら作れるの?」

「・・・ちゃんとは聞いたことないのですが、大きさは関係ないようです」

「・・・本当にやばいわね。それってつまり、条件が合えば、敵の武器も鉄くずにできるってことよね」

「その上、おそらくですが、このまま強くなれば、ようになりますね~」

「それなのにもかかわらず、こちらはいくら武器を壊しても、最終的には修理生産できます」

「それがどこにいつあってもよね。学様の見えるところなら」

 そう学のスキルの一番の問題はそれだった。

 普通の錬金などの生産職は触らないと発動することがほとんどの場合できない。

 だが、学はそれを一瞬で離れたところからできるようになるだろう。

 今はまだできることは限られるが、学の『鑑定技師』も十分にチートな性能であった。

「二人とも」

 振り返り、ハーブティーを持っている手がぎゅっと取っ手をつかむ。

 それを見た二人メリイとアリアはその姿を見て、少し驚く。

 この3人は昔からの幼馴染だった。

 ゆえにほぼ表情が変わらないシャロなのだが、感情が出る仕草があるのだ。

 この仕草が出るのは不安な時。

 まだ学とシャロは会って2週間。

 そんなことは今までなかった。

(そんなにもあの方は魅力的なのでしょうか~)

 少し妬けてしまうアリア。

「大丈夫ですよ、ね、メリイ?」

「当たり前よ、学様がいないとこのおいしいお菓子食べれないのよ」

「それに~悪用なんてされたら私の担当しているこの方が暴れまわっちゃいますよ~」

 背負っている姫花を見て言うアリア。

「ありがとうございます」

 そんな二人を見て、アリアはそう言う。

「「それに」」

「?」


「「親友が恋焦がれている方ですから」」


「!!!」

 その言葉を聞いたシャロの表情は変わらない。

 しかし、


「「ふふ、耳真っ赤」」

「・・・ふたりとも?」

「「きゃー」」

 二人の言う通りシャロの耳は赤かった。

 シャロは少しジト目で親友達メリイとアリアを追いかける。

 もちろん、大切なハーブティーは落とさないように。

 赤い理由はいうまでもないだろう。


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