第9話
「・・・とまあ、学様の一日はこんな感じですね」
「「「働きすぎ」」」
「・・・私もそう思います」
時間は流れ、だいぶ夜も更けた王城の一室でそんなことを言っているのは、4人の少女たち。
部屋の中にある机には温かい飲み物の入っているカップが4つ。
机の周りにある椅子には可愛らしい寝間着を着ている少女は白百合姫花。
その目の前にいるのはメイド服のシャロであった。
「北野君、王城にあまりいないと思ったら毎日そんなことやってたんだ」
「ええ、なんなら他にもいろいろなところに手伝いに行ってますよ」
「本当に働きすぎ!!」
「うふふ、本当ねえ」
「アリアさんもそう思いますよね!」
驚きを隠せない姫花の横でおっとりオーラ全開でニコニコしているのは、姫花の専属メイドのアリア。
紺色の髪で糸目。それよりも特徴的なのは、ゆれる大きなもの。
何と言わなくてもいいだろう。
「他にはですね・・・」
「ふむふむ」
なぜこんな会が行われることになっているか・・・
それは学たちが来てすぐに起きた『聖女様メイド服事件』である。
実は学にはただの噂としてしか入ってきていなかったのだが、本当は実話であった。
メイド服を来た姫花がシャロの代わりになると言い出して、王城のメイドたちは大慌てになっていた。
持ち前のルックスと『聖女』ということから誰にも止められない状況になりそうだったのだが、
「まさかシャロが姫花様相手に前に出ると思わなかったわ」
そう思い出して少しため息をついて言ったのは正義の専属メイドであるメリイ。
茶髪でツインテールといかにもツンデレが似合う感じのツリ目。
一部の人に人気だそうだ。
「あのままだと学様が不本意な目立ち方をしてしまいますからね」
「う・・・」
「あの頃は今より学様はよく思われていませんでしたから。聖女様はもしかしたらあの男になにかされたと思われていた方も出そうでしたから」
「う・・・だって専属メイドなんて・・・」
「なんですか?」
恨めしそうにシャロを見る姫花。
「・・・北野君耐性なさそうだから」
「・・・姫花様意外と嫉妬深いんですね」
「しっ・・・!」
嫉妬と言われて顔を赤くする。
「「今更」」
「二人もひどい!!!」
「事実ですよね?」
「事実よね?」
「・・・そ、そうだけどお」
メイド服事件のときにすでに姫花の恋心はこの3人にはバレている。
だからこそ、シャロがこのように学のことを伝えることになったのだ。
聖女様の息抜きとの名目でメイドたちと夜のティータイムを行うことになったのだ。
その代わりと言ってはなんだが、
「そういえば、王城の方はどうですか?」
「相変わらずよ」
「そうですねえ。勇者様と聖女様のお話でもちきりです」
「学様のことは?」
「最近はあまり」
このように王城の様子などを共有している。
どうしても学が外に出てしまうので、王城の情報が入ってこない。
学に影響が出る内容は得ておきたいとのシャロの思惑があるのだ。
「勇者様は最近どうですか?」
「・・・言わなきゃダメ?」
「そんなにだめですか?」
「だめ・・・ではないのだけれど・・・少しやりすぎている感が」
明後日の方向を見ながら苦笑いをするメリイ。
「と言いますと」
「・・・魔王を倒すための力をつけているのはいいのだけれども、周りが騎士様、魔導士様だけなのよ。だから、どうしても」
「貴族よりの思考が働いている?」
「そういうこと」
「あーそれわかるかも」
姫花がクッキーをかじりながらそう言った。
「なんか魔導士の皆さんもスキルの有能なものこそ至高で、それは貴族である我々だとか」
「そうなのですよー」
「まあ、それはこの王国の構造が拍車をかけているのよ」
「構造?」
「姫花様~この前の王国歴のお話聞いてませんでしたね?」
「ぎく」
「・・・また、エレナ様に怒られますよ?」
「だってー」
「大方学様が隣にいるからぼうっと見てたのでしょ」
「・・・」
顔を真っ赤にしている姫花。図星のようである。
ちなみにエレナはこの王城のメイド長である。
基本的な作法、この国のルールは基本的に姫花と学にはこのメイド長が教えているのだ。
正義に関しては貴族の中で選抜されたものが教えているらしい。
本来なら姫花も貴族の方に教わるはずだったのだが、姫花がそれを拒んだのだ。
理由は学とメイドの個人レッスンというキーワードで察していただけるとよいかもしれない。
もちろん、正義もこちらで教えを乞うと言ってきたのだが、魔王討伐のためと言って納得させたようだ。
「で、話を戻すけれども、この国は大きな山の上に建っていてね。今私たちがいる山の部分が王族、貴族領。その下にそのまま行くと、学様がよく行っている国民領。そして、そのままさらに下に行くと奴隷領。そのさらに下が魔物が大量に存在している魔物地帯。魔王軍はその魔物地帯のどこかにいると聞いているわ。でも、他にも国があるから一概にすべてが魔物地帯とは言えないのだけど」
そう言って、マカロンに手を出すメリイ。
ちなみにこれも学作。
「なるほど・・・」
「ちなみに~階層ごとに分かれているのは、階層の上に行くためには許可が必要なの」
「許可・・・」
「私たちはメイドということで許可が出ています」
「・・・ちなみに他の国から入ってくる人は?」
「入る際には国民領ですね。だから、他の国を出て再出発という人がたまにいますよ」
「なるほど・・・急に奴隷になるってことはないの?」
「基本的には。この国で多額の借金をかかえたり犯罪を犯したりした者、亜人が奴隷になりやすいので」
「亜人・・・奴隷・・・」
姫花は亜人、奴隷という言葉で、本当に異世界に来たのだと実感させられている。
「姫花様の世界ではいないのでしたね」
「ええ」
「・・・そのおかげで勇者様が『奴隷なんて!人の命を何だと思っているんだ!!』って奴隷商人とっ捕まえて、奴隷を解放した時は焦ったわ・・・」
「犯罪奴隷も混じっていましたからね」
「勇者ということでどうにか事なきを得ましたけどね」
「一応国民領の冒険者ギルドに斡旋しているエリアに出向いて魔物一掃するし」
「そのときの一言なんでしたっけ」
「『僕は勇者だ!君たちの分まで魔物を退治しよう!だからエリアなんて関係ない!!』・・・よ」
「ただでさえ制限されているエリアに土足で入られた国民ギルドの方はどう思うのでしょうね」
「貴族ギルドにとっては~勇者様がそう言っているから勇者様がいるときにはすべて俺たちのエリアだって言えるようになりますよね~」
「正義君・・・」
頭を抱える姫花。昔からそうなのだ。
全て自分が思うことが正義だという風に育てられた正義は自分の正義を曲げない。
ゆえに、様々な弊害もあったのだ。
「姫花様元気を出してください」
「うう、ありがとうシャロさん」
「では、学様とのエピソードお聞かせくださいな」
「それが目的だよね?!」
「ふふ」
「うー余裕だね!いいもんとっておきの出しちゃうんだから!!」
「こちらにも最新のとっておきがありますよ」
「あらあら~」
「ちょ・・・私の愚痴も聞きなさいよ!!」
いろいろな問題はあるのだが。
メイドたちと聖女様の真夜中のお茶会はこれからも楽しく続きそうであった。
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