第8話

「で、きっちり他の仕事までやってこっちに来たんだね」

「まあな。あ、つまみ持ってきた」

 時間は流れ、学たちはまた移動していた。ゲンの道具屋に似ているが、道具の数々がどれも独特な形をしている。

 そんな店の一角で学が話しているのは黒いワンピースを着ている女性、セイという女性だ。

 黙っていれば、シャロとは違う妖艶さを持っている。

「うはー!!まじか!!!よし!!ここの魔道具を一つ持っていっていいぞ」

 黙っていれば、だが。先ほどまでの大人びた顔から学が持っているつまみを見た瞬間目を輝かせてよだれをたらしている。

「え、まじ?」

「おうさ、学のつまみはうまいからね。それに掃除手伝ってくれるから助かっているからさ」

 そう言って、カウンターから酒を取り出す。

「セイ様、まだ営業時間では?」

「えー」

「えーじゃ、ありませんよ。この前飲み過ぎてお客様が来た時に私たちが困ったのをお忘れですか」

「むーつれないなあ」

 酒の入っていないグラスのふちを撫でまわすセイ。

 そんなセイをあきれた様子でシャロは見ている。

「セイさん、シャロの言う通りだ。ちゃんと営業時間まで働いたら、奥のキッチンでもう一品作ってやるから」

「なら頑張る!」

 そんなセイを見かねた学は少し助け舟を出す。

 やる気を出したのか、鼻歌を歌いながら、様々な部品を取り出した。

「それ、魔道具の部品か?」

「そうよー魔道具の修理も私の仕事の一貫だからね」

「どんな魔道具なんだ?」

「灯をつける魔道具よ」

「ああ、だから、ガラスなのか」

「え!その反応!もしかして学のいた世界にも似たようなものがあるの?!」

「お、おう」

「聞かせて!!」

 急に顔を近づけてむふーと鼻息を荒くするセイ。

 学がセイに会ったのも学が言った一言がきっかけだった。

『風見鶏の宿』で料理を作っているときに、客の一人が何人かにあるものを見せていた。

 人だかりができていたので、学も注文を取りに行くついでに見に行くと、客は女性であった。

 その手に持っているのは小型の棒のようなもので、女性がその棒についているボタンを押す。

 するとその棒から火が出ていた。

 どんな構造か気にはなったが、学はうっかり口を滑らせた。

 なんだ、ライターか、と。

「まさかその声が聞こえた上に「ライターって何?!」って今回みたいにせまってくるんだもんなあ、セイ」

 そうその女性がセイだったのだ。セイはこの町で最近開かれた唯一の魔道具職人だった。

 魔道具を売るのをメインとしているので、最近人気になっている『風見鶏の宿』にきていたとのことだった。

 しかし、どちらかと言えば、というか圧倒的に新しいものや知らないものに関して、興味があり、魔道具を作ってみたいと思っている超職人気質だったのだ。

「いいじゃないか、やはり知らないものというのは興味惹かれるものだ。学も同じだろう?」

「まあ、そうだが」

 学もモノづくりが好きなので分からないことはないなと思う。

「だろう!さあ、灯を灯す道具について教え、へぷ!」

「仕事してください」

 また学に迫っていたセイを止めるように箒で頭を軽くはたくシャロ。

「うーひどいじゃないか、シャロちゃん。もしかしてやき」

「し・ご・と」

「さーせん!!」

 絶対零度の冷ややかな目とはこのことだろう。

 先ほどまでニヤニヤしていたセイは冷や汗をかいて敬礼した。

 今までに見たことのないシャロに少し冷や汗を学もかいている。

(やっぱりもうシャロ怒らせないようにしよう)

 そう誓う学であった。


「やっと終わったー!!!」

 手を挙げてセイは嬉しそうに叫ぶ。

 やっと閉店時間を迎え、シャロは店の看板をしまっている。

「シャロちゃん!いいよね?!」

 そんなシャロに目を輝かせてそう言うセイの手には酒瓶。

 シャロは少しため息をついているが、

「いいですよ」

 まあいいでしょうと許可を出す。

 どちらが店長のなのか怪しいものである。

「学~!もう一品よろしくね~」

「あいよ」

 学もやれやれという気持ちであったが、楽しそうにしているセイの姿にどうでもよくなった。

「あ、私も一品」

「・・・あいよ」

 俺の夕飯は先だなと思う学であった。


「そういえば、魔道具どれ持っていくか決めた?」

「あれ、本当だったのか」

 シャロが皿を洗っている間に学とセイはランプや様々な道具について話していた。

 いろいろと話しているうちにそろそろお開きとなったときにセイは学を見て言う。

「んー何々、少年は私がうそつくとでも~」

「誰が少年だ。いいのか?」

「もちのろん」

「・・・」

 翻訳機能すげえなと思いながらも本当に魔道具がもらえるのはラッキーだと思う学。

 どれをもらおうかと悩んでいると、目に入ってきたのは妙に装飾が凝っている腕輪だった。

「なあ、これなんだ?」

「んー?」

 気になった学はセイに尋ねる。

「ああーそれなあ。たしか知能の高い生物の声が聞こえる魔道具だったかな」

「だったかな?」

「んー実はそれ、貰い物でなー詳しいことはわかんないのよー」

「そうなのか」

 正直魔道具の効果はいつ使えるか分からないのだが・・・学にはなかなか魅力的に見えた。

「ほしいん?」

「だめか?」

「いいよ」

 即答だった。

「いいのか?貰い物だろう?」

「いいのいいの」

 セイは手をひらひらとさせて言う。

「もともと貰い物で売値つけられなかったし、そんなのでよければね。いつもいろいろ話聞かせてもらっているお礼もかねてかな」

「ならもらう」

 そう言って学はカバンの中にその腕輪を入れる。

「じゃ、また明日、セイ」

「飲み過ぎないように」

「はーい」

 そして、学とシャロはセイに見送られて店をあとにするのであった。

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