第6話

 朝の稽古が終わり昼頃。

 学はというと、

「学!三番テーブル!!チャーハン2人前だ!」

「了解です!5分で作ります!!」

「学様、5番テーブルホットサンドの追加のオーダー入りました」

「分かった!」

 宿屋で料理を作って作っていた。

 その近くにはメイド服ではなく、ウェイトレス姿のシャロがテキパキと料理を運んでいく。

「いやー学が入ってきてくれてから大繁盛だ!」

「いやいや、そんなことないですよ、ハンスさん」

 そう快活に言うのはここの宿屋のオーナーのハンス。いかにも下町のいいマスター感が漂う人であった。

「いやいや、本当だよ!あんたの料理じゃ客が全く来なかったからねえ」

「く・・・!う、うるさいぞ!ケイナ!」

 テーブルを拭きながら、ハンスにやれやれという目線を送っているこちらも下町の女将さん感が漂う女性はケイナ。

 この二人はこの宿『風見鶏の宿』の経営者だ。

「いやいや、むしろこっちが感謝ですよ。あんなにすんなり雇ってくれるとは思いませんでしたから」

「はっはっは!俺の目には狂いはなかったってことだ。しかし、あの時はいきなりびっくりしたぜ。シャロちゃんがいきなり連れてきたと思えば男連れてその男を雇ってくださいなんて言われたときはな」

 快活に回想に入りやすい説明をしてくれるハンス。

 そう、その通りなのである。

 学は毎日の稽古をするはいいが、今までの生活習慣も含め、稽古だけだと物足りなかった。

 それに全く戦闘力が皆無だったため、金も稼ぐことはできなかったのだ。

 ゆえに戦闘以外で金を稼ぐために何かしたいと考えていたのだ。

 そこでシャロに相談したところまず紹介されたのがこの『風見鶏の宿』だった。

 シャロが王宮勤務になる前に雇ってもらっていたのが、ここだった。

 そこで皿洗いくらいはできるだろうとシャロはしぶしぶ紹介したのだが・・・

「まさか料理スキルもないのにこんなに料理がお上手だと思っていませんでした。あ、1番テーブルオーダー入りました」

「いやいや、俺はそこそこしか作れないよ。3番テーブルできたぞ」

「かしこまりました。なにを言っているのですか。学様の料理食べたさにどれだけの人が来ていると思っているのですか」

「おー!シャロちゃんの言う通りだぜ!あ、俺ステーキ1つ」

「そうだぞ~!俺はミートスパな」

 さも自分のせいではないというように言う学をいつも通りのクールなまなざしで見ながらツッコミをいれるシャロに同意する客。

 ちゃっかり自分の注文をしてくるのはご愛嬌。

 最初は、シャロを独占する学に嫉妬の目を向けるものが多かったが、次第にそれも薄れていき、今のような軽いノリで話してくるようになっていた。

 おかげで、モノづくりの一環として覚えていた料理も上達している。

(まさかこんなに自分が料理を作るのが好きだとは思わなかったな)

 フライパンをふりながらホットサンドの焼き具合を確認しながらふとそう思う学。

ほとんどの基本的な料理を覚えていた学なのだが、自分に作ることはあまり好きではなかったが、意外と他の人に作ってみると楽しいと感じるのであった。

「お!学!シャロちゃん!!あと少ししたら次のところ行く時間だろ?」

 そんな学に簡単な調理をしながらハンスはつぶやく。

「おっと。そうですね。すみません、ここで昼済ませていいですか」

「もちろんだ!ついでに俺らの分も作っておいてくれ」

「分かりました。シャロはどうす・・・聞くまでもないか」

 学の目線の先にはフォークを持って椅子に座っているシャロ。

 このメイドは学の料理を食べてからというもの、学の料理を食べるのが楽しみのようだ。

「もちろんです。それと今日も勝ちましたので、あれを頂けると大変嬉しいのですが」

「分かっているよ。これ食い終わったらちゃんと用意してやるよ」

「ふふ、さすがです」

 そう言って学はまかないを作り始める。

(さてと・・・)

 学の目の前には余っていたなにかの卵と乾麺。

「今日は何を作ってくださいますか」

「今日は簡単ナポリタンかな」

「ナポリタン?」

「ま、食ってみればわかるさ」

 そして、学は麺を湯に入れ、フライパンをさっと温める。

「手際いいですね」

「シャロもできるだろ」

「スキルなしでそこまでできる人はいないですよ」

「そういうもんかね」

 学は話をしながら、ゆであがった麺に油でさっとあえる。元々余っていたケチャップモドキフライパンの中に入れる。

 ちなみにこのケチャップモドキは学が作ったものだ。

(あとは適当に野菜を入れて卵は目玉焼きにして上に)

「ほらよ。簡単ナポリタン」

「おいしそうですね」

「ありがとう。ま、さっさと食べてくれ」

 学は自分のナポリタンを作りながらシャロに促す。

「もちろんです。目玉焼き乗っけるとか食欲そそられます」

「そりゃよかった」

「かふひゃまおいふぃでふ」

「分かったから、食ったまま喋んな」

 リスのように口いっぱいに頬張って話してくるシャロ。

 学は苦笑いしながら促す。促しまくりだ。

「むぐむぐ・・・おかわりください」

「はええよ」

「おいしいので」

「そらどうも」

 俺の分も食われそうだなおいと思う学であった。

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