第5話
学たちが異世界に召喚されてから約2週間が過ぎた。
現在、学はというと、
「学様、ふらついてます。もっと足をしっかり」
「っ・・・!分かってるよ!」
「その意気です」
「ちょ・・・剣速あげるのやめろ!」
「ふふ」
朝の王宮の訓練場の裏でメイドに木剣を持って立ち向かっていた。
このメイドの名前はシャロ。水色の髪で両サイドがおさげになっている。
メイド服はさすが異世界といったところかクラシカルに近い。
ちなみに先ほど「ふふ」と少し笑ったように聞こえるだろうが、表情筋はまったく動いていない。
しかし、そんなことを気にさせないような綺麗な顔。なぜメイド服を着ているのか不思議になる見とれるような顔をしている。
そんなメイドがロングスカートをはためかせ、学にとってはめちゃくちゃ速い動きで襲ってきていた。
「よっ、はっ!!」
スキルとして回避スキルすらない不器用な避けを繰り返す学。
不器用ながらも様になっている。
召喚された次の日、3人は各々基礎訓練から始めることになったということをオルグから聞いた。
正義は勇者のスキルの噂を聴きつけた騎士団や魔導士団から剣術や魔法を中心に教えてもらうことに。
姫花も聖女のスキルの噂から魔導士団で治癒魔法、光魔法を中心に教えてもらうことに。
やはり勇者、聖女のスキル、勇者、聖女に教えたというのは箔がつくらしい。
そして、学は「何もできないならせめて自衛の術ぐらいはと思い・・・」とオルグから派遣されたのが、シャロだった。
なんでも、シャロは2つのスキルのうちの一つが剣術らしい。
王宮のメイドになるための条件は料理や洗濯などの家事スキルを持っていることが条件だった。そんな中、シャロはすべての家事スキルが使えるスキル『メイド』を持っているかなり優秀なメイドだったらしいと学は聞いた。
そう、戦うメイドさんは異世界にしっかりと存在していたのである。
そして、この王宮に仕えるメイドならちょうどいいと選ばれたそうだ。
要するに、学を押し付けるうってつけの人材だったということだ。
他にいなかったというのが正しいかもしれないが。
そんなことからシャロが学の専属のメイドになったというわけだ。
学としてはこんな美女に担当してもらえることを嬉しく思った。
さすがに朝いきなり部屋に入ってきたメイドさんには驚いたが。
最初のうちは、メイドらしく学の身の回りの世話もしてくれようとしたのだが、女性に免疫がなかった学には慣れないものであり、今まで自分のことは自分でほとんどやっていたので、とりあえず、着替えとかは遠慮した。
そのことにあとで気づいた『聖女』様がニコニコと魔物を蹂躙したとかしないとか。
そのあと、メイド服を着て朝、学の部屋に入ろうとして、他のメイドたちに捕まったとか捕まってないとか。
しかし、そんなことは知らないと言わんばかりにシャロは「まあ、そこは一旦置いておくとして、少なくとも盗賊等にあっても逃げられるくらいには強くなりましょう」と朝の鍛錬が始まった。
このメイド強かである。
といっても、場所は他の騎士や魔法使いが戦力にならないものを訓練場に入れることはないということで訓練場の裏側だ。
最初はメイドが剣を教えるなんて・・・と周りが言っていたのだが、そんな考えはすぐに消えた。
このメイド最初からスパルタであった。
ゆえに途中からそんなことをいう騎士団員はいなくなっていった。
むしろ学のことを応援する声が増えていったくらいであった。かといってあまり近寄りもしなかったが。
そのとき、学は人間死ぬ気で頑張れば、どうにかなるのだと悟った。
なぜ学がそう思ったのかは割愛させてもらおう。
そんなわけで、今では多少なりとも剣は振れるようになった学だったが、それでもスキルを持つシャロにかなうほどではなく。
ずるっ!
「あ」
「まだまだですね」
体力がとうとう尽きて足を滑らせた。
木剣で両手は塞がり、視線の先は硬い硬い地面が見えていた。
(あーこれ痛いだろうな)
実はシャロの訓練時にはよく転がっていた。
学は大人しく顔面から地面にダイブすることを覚悟したのだが、
ぽふん。
「あれ?」
なぜか目の前には白い柔らかいものに包まれた。
(ん?なんだこれ、地面にしては柔らかい気が・・・それに)
しては自分の顔が埋もれていると学は気づく。
まるで柔らかいクッションに包まれているような・・・
「・・・そろそろいいですか?」
「!!!」
顔を上げるとシャロの顔。まったくと言って表情が変わらないクールビューティー。そのお顔が目の前にある。
(もしかして、これは・・・・!)
なんてテンプレ展開だと思うが、学が包まれていたのはシャロのお胸様だった。
大切なことなので2回言おう。シャロの大きなお胸様だ。
「ご、ごめん!!!」
そのことに気付きすぐに顔を離す学。
「別に問題ないです」
相変わらずの無表情のシャロはそっけなくそう言った。
しかし、学はパニックだ。
(おおお?!まさかこんなことにこけてラッキー・・・って違う!シャロって意外と・・・って違うから!!)
学はすぐに離れたが、その感触はまだ残っていてワタワタとしている。
まあ言うまでもなく、学はこのような経験をしたことがない。
思春期?学的には思春期は灰色でした。
姫花が色々と刺激を与えようとしたのだが、すべて周りから殺気を感じ、学は全て回避してしまったということもあるが。
「その調子だと大丈夫そうですね」
「へ?」
しかし、至福の時間はそこまでだった。
「では、稽古の続きです」
そういって、シャロは木剣を構えなおす。
「あの?シャロさん??俺足がもう」
「できますよね?」
「・・・はい」
そのあと、シャロの剣速がさらに上がり、その剣に当たらないように必死でよけまくった学がへとへとになり、気絶するまで、朝の稽古が続いたのは言うまでもないだろう。
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