第4話

「これは・・・」

オルグは学のスキルロールをみて、明らかに動揺する。

正義と姫花も同様だった。

それもそのはずだ。

鑑定技師というスキル自体も見たことはなかったが、問題はその下だった。

召喚に巻き込まれたもの。

それだけで学が今置かれている状況が分かるものだった。

そう、学は選ばれて召喚されたわけではなかった。

たまたまあの場にいた、正確にはほぼ正義と姫花しかいないときに発動されたものだったのだ。

(あの魔法陣は天川と白百合さんを中心に、こっち側魔法陣と同じ範囲だけ召喚対象にしたわけだ)

そんな中、学は意外にも冷静だった。

「オルグさん」

「は、はい、なんでしょうか、学様」

「今後のためにもスキルの内容を見ておきたいのでいったん返してもらってもいいですか」

「え、あ。そ、そうですね。内容を確認しない限りまだわかりませんよね」

オルグは少し慌てて学にスキルロールを返す。

そして、自分に言い聞かせるように学に話しかける。

まだ少し認めたくなかったのだ。異世界から、こちらに来る必要な、呼ぶ必要がなかったものを呼んだことを。

学はその表情にため息を少しつきたくなるがそんなことをしているくらいなら今後の自分自身の心配を先にしたほうがよいとスキルの文字に手をふれる。

そして、改めてスキルロールを見ると学の2つのスキルは次のように表示されていた。


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北野学 男

スキル:鑑定技師・召喚に巻き込まれたもの


鑑定技師・・・一度見たことがあるものは材料があれば視覚内であれば作れるようになるもの。ものを鑑定し、作ることのできるものは思い浮かべることで材料を確認でき、生成できる。


召喚に巻き込まれたもの・・・勇者召喚に巻き込まれたもの。以下のスキルを持つ。

・言語理解

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(・・・なんというか俺らしいといえば俺らしいな)

学は自分があんまり喧嘩もスポーツも得意ではないということが分かっていたし、あっちの世界ではいろいろなものづくりに精を出していたから戦闘向きの職業にはならないと思っていたのでそこも割り切れた。

それよりもショックだったのが、

(本当に巻き込まれただけって感じなのか・・・神様・・・どうせなら巻き込んでしまった謝罪の意味を込めて異世界から選ばれたものと同じ内容にしてくれたらよかったのに・・・本当にただの人だな)

少し異世界に来たので期待していたのだ。

「北野君・・・?」

心配そうに姫花が学を見る。

(だが、そこで諦めないのが、クリエイター)

と考えている学。

(ならこっちのスキルが本命だな)

次のスキルを試そうとする学。しかし、意識は急に外に戻される。

「北野!!オルグさんと姫花の邪魔をするんじゃない!!」

その原因は正義であった。学は一瞬こいつは何をまたと思った。

それに気づいたのか鼻を鳴らし、学に向けてこう言った。

「先ほどからオルグさんと姫花が話しかけているのにその態度はなんなんだ!さっさとオルグさんの指示に従わないか!」

「正義君!そんな言い方!!」

「でも、事実だろ。北野のスキルは戦闘には向いていない。ということは魔王討伐は僕たちがやらないといけないんだ。間違ってきてしまったこいつにかまっている時間はないんだ」

「だから、そんな・・・!」

「いいんだ」

学はこれ以上正義と姫花が言い争ってしまうと今後に影響が出そうだと思い、姫花を止める。

「白百合さん、実際俺は今のままでは足手まといなんだ」

「そんなこと・・・」

「だからさ」

辛そうな顔をしている姫花をどうにか元気づけようと学は言葉を紡いでいく。


「俺がどんな形であれ追いつく前に魔王を倒してくれ」

「!!」


この言葉に驚く姫花。学は我ながら情けないと思ったが、今は前に進むために言葉を選んではいられない。

知り合いのためにこんなに親身になってくれる人にこれ以上そんな顔をさせてはいけないと思ったのだ。

「姫花。彼の言う通りだ。もちろん彼も来てしまったからには努力してほしいが、僕たちがこの世界のために頑張れば、彼が無理をしなくても元の世界に帰れるかもしれない」

学の態度が気に入ったのか、握りこぶしをぎゅっと握りしめそう言う。

「・・・わかった、私頑張るよ!」

姫花も覚悟を決めたのか、正義の言葉に続く。

それに安心したのかオルグは息を吐く。

「では、皆様。一緒に頑張りましょう」

オルグのその言葉に自分は入っているのかと思った学であった。


それからはあっという間に過ぎていった。

まずは、王国の高い地位にある者たちの自己紹介だ。

王宮にあるとても広い広間で、国王が改めて挨拶を行い、そこから王妃、王子、姫の順に学たちに対して、紹介が行われていた。

その後、宰相、騎士団長などの数々の者の紹介が行われた。

ちなみにあのカイムとかいう青年騎士は騎士団の副団長だったらしい。

その自己紹介が終わると、学たちの衣食住は保障するという旨と明日から早速訓練が始まることが伝えられた。教官は明日改めて始める前に発表を行うらしい。

そして、そのあとすぐに、そこで異世界からきた勇者一行のための晩餐会がとり行われた。

そこでは、どこで情報を仕入れたかわからないが、「勇者様」、「聖女様」と正義と姫花の周りに人が集まっていた。

もっとも、この二人であれば、前の世界と変わらずに見とれる殿方やご婦人方が多かったので結果は変わらなかったと思うが。

もちろん、学のところには誰一人も来なかった。

晩餐会が終わるとそのあと、学たちは一人ひとりに部屋案内されて、ふかふかのベットがある部屋だった。

学は服を着替える余裕もなくそのままベットに倒れこむ。

(本当にいろいろあったな)

ただそれだけだった。そのあとはただゆっくりと学は眠りに落ちたのであった。

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