第2話

「なん…だ?」

 光が落ち着くのにそう時間はかからなかった。

 学は辺りを見渡す。

 周りにはあきらかに学校の教室ではない西洋風の柱がたっていた。

 その奥は暗く先に何があるか分からない。

 そして、地面には一瞬だけだったが見えた魔法陣が描かれている。

(見慣れない場所、魔法陣・・・これって、もしかして)

 一瞬ある考えにたどり着いた学は、もう一度見まわした。

 学の周りにいたのは姫花と正義だけであった。

 幸いかどうかわからないが、この3人以外はあの光に巻き込まれていなかったようだ。

「ようこそおいでくださいました、勇者様方」

 学たちがまた困惑していると、暗がりから数人の人影が。杖を持ち、白いローブを着た集団がこちらに歩いてくる。話しかけてきた一人の男以外はフードを深くかぶっており、顔を見ることができない。

 その顔を見ることができる男は学たちよりも年上なのだろうか。大体30代半ばでそこそこ整っている顔をしている。赤い瞳が明らかに日本人ではないことを示している。

 フードを外していることからも分かるようにこの中でも立場が偉いのか他の者とは違い、大きな錫杖を持っている。

「な、なんですか、あなたたちは!それにここはどこです?!それに勇者とは?!」

 やっと正義が少し落ち着いてきたのか、錫杖を持った男に話しかける。

 男は正義の言葉に反応し、改めて学たちに話しかけてきた。

「ああ、申し訳ございません。私はシャルグラード王国直属魔導士長オルグと申します。残りの質問に関しては我が王からお話させていただきますゆえ、どうかこちらへどうぞ」

 そう言ってオルグは微笑みゆっくりと錫杖を振る。暗かった奥の道を照らすように灯が灯った。

 学たちは不安を抱えながらも、オルグ達についていくしかなかった。


 学たちが連れてこられたのは広く大きな広間だった。その広間の先には少し高い位置にある煌びやかな椅子に座る王冠を被った老人がいた。しかし、その老人は老人とは思えないほど雰囲気を漂わせている。

「よく来た、勇者諸君。儂がこの国王ジル・シャルグラードだ」

 そう言う彼の瞳は学たちを鋭く刺さった。

 まだ状況が把握しきれていない姫花はその視線に少し悲鳴を上げそうになっていた。

 そんな姫花には気づかず、正義は学たちの前に出る。

「あなたがここの責任者か!いったい俺たちをここに連れてきてどうするつもりだ!」

「貴様!陛下にご無礼だぞ!」

 やはり何もわからず連れてこられた鬱憤もあったのか正義は叫んでしまい、王の台座の下の階段に控えていた騎士の格好をした青年が剣を向ける。

(まずい・・・ここで言い合いになられたら話が聞けなくなるじゃないか?)

「なあ、天月君、ここは一旦抑え」

 学が正義を落ち着かせようと前に出ようとする。しかし、

「やめんか、カイム」

 ジル陛下の声が響く。

 その声を聞いた青年騎士、カイムは王の方に向き、跪いて口を開く。

「しかし、陛下!」

「よい。そもそも彼らを連れて来たのは儂たちだ」

「っ・・・はい」

 一瞬納得がいかないというような顔をカイムはしたが、その後頭を下げ、剣を鞘に戻した。

 周りからも剣を戻す音がする。カイム以外の騎士たちも学たちに剣を向けていたのだ。

(やばいな・・・国王が止めてくれてなかったら本当にどうなっていたか・・・)

 その様子に冷や汗をかく学。そんな学の袖が急に引っ張られる。

「北野君・・・」

 そこには不安そうな姫花の姿があった。やっと、今の現状がつかめてきたようだった。

「大丈夫だよ」

 学はそんな姫花に向かってそう言葉を口にする。

 正直またこのような姿を正義に見られると厄介だと思ったが、それよりも姫花を安心させることを学は選んだ。

 そんな学の気持ちが伝わったのか、少し驚いた後姫花を少し、表情が明るくなっていた。

 幸いにもこの姿は国王のことで手一杯な正義は見ていなかった。

「では、そちらの二人もよいか?」

 カツンと学たちの意識を戻すように玉座を指でたたく。

「「す、すみません」」

「よい、急にこんなところに連れて来られれば、不安で周りが見えなくなるのも分かるからな」

 じっとこちらを見ているジル陛下の視線の先がどこを向いているか気づいた学と姫花はお互いに距離をとった。

 それを確認したジル陛下はゆっくりと立ち上がる。そして、ジル陛下はここに来て、最初に学が思い浮かべた言葉を口に出す。


「そなたらはこの世界に召喚されたのだ」


 そう異世界召喚されたのだと。


 後の流れはラノベでよくある異世界召喚ものと同じであった。

 この世界には魔王が存在しており、その魔王軍の侵攻がここ何年かで勢いを増してきたそうだ。その影響で魔物達も活発に活動しているそうだ。

 伝承によれば、その侵攻を止めなければ、世界が滅ぶとされている。

 他国とも協力をしていたのだが、それでも、勢力を増す魔王軍。

 それの対抗策として、伝説にある勇者召喚をシャルグラード王国が行ったということらしい。

 この国には異世界らしく魔力を多く持ったものが多く、召喚に成功したらしい。

 学はそれを聞いたときに滅んでしまうのに侵攻するバカなんているのかと思ったが、正義は真剣に使命感満々の顔で、

「なるほど!この世界を救う力が俺たちにはあるんですね!」

 といい、自分たちの来た理由が分かったと言っていた。

 その言葉を聞いたジル陛下とオルグ、カイルは喜んでいた。


 そして、もう一つ異世界召喚の定番。

 学はうすうすわかっていたから聞くのをやめていたが、姫花は耐えられなくなったようにある質問を投げかけていた。


「それが終わったら、私たちは帰れるのですか?」


 と。そして、その答えはジル陛下の口から告げられた。


「今のところ帰る手段はない」


 その言葉を聞いたときに姫花は下を向いてしまった。

 しかし、正義はそれを聞いても、

「何落ち込んでいるんだ!姫花!俺たちがこの世界の救世主になんだ!帰る手段は後回しにして救うことだけ考えた方がいい!」

 と自分の正義感を振りかざしている。

 一瞬、学はさすがにその暴論に口を出そうとするが、それを止めるように、

「う、うん!そうだね!この世界が滅んだら、帰る手段もなくなっちゃうよね」

「その通りだ!」

「ということは協力してくれるのだな」

「もちろんです!この3人で世界を救ってみせます!」

「・・・」

 まだ、学の口から何も言っていないのにも関わらず、勝手に参加表明をされてしまった学であったが、正義が言っても聞かないことはわかっていたので、半分あきらめ気味に協力しようと思う学だった。

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