「連絡網」
「団地にてヌエを捕獲、ただし怪我人あり至急応援頼む」
二号のアカウントからそう連絡が入った。
男の取り調べを終えた後、急いで代表が用意したホテルに立てた臨時本部に向かったのである。
現在はリーダー、天狗を筆頭に各部隊からの選抜数名が代表と他の各機関の担当者が待機しているところであった。
「かまいたちは何をしているんだ、連絡がつかない」
正直二号はまだ新人に等しくすばしこいのは良いがまだ不安はある。
恐らく敵は何かの目論見があって我々を団地にまとめておびき寄せたいだけだろう。既に何かを仕掛けていると想定される。
ホテルには通信兵の一号と天狗の隊員ひとりを残し、団地に向かうこととなった。
「もし我々と連絡がつかなければ代表に指示を仰げ。代表の言う事は私の言う事と同義だと思え。わかったな」
リーダーはホテルに残す二人にそう徹底して言い聞かせる。
それと同時にもしもに備えて狐火から数名をホテルに呼び出す。現場で突然「必要な物」が増える可能性がある。
無線システムにトラブルが起きているのかどうかはわからない。だから今は先ず現場を見なくては何も始まらない。行かなくてはならない。
あの団地に一体何があるというのだ。
ただの隠れ家ではなかったのか。きな臭い。
後部座席では天狗の隊員が団地の地図を凝視している。酔わないのだろうか。少し心配になる。
車の運転は卒業生のひとりであった。
彼女は卒業後はしばらく自衛隊にいたが、今はある巨大企業で運転手兼ボディガードとして生活しているという。ヌエの事もよく覚えていた。助手席に座ったリーダーはもしもに備えて左手に簡易ガスマスクを握りしめている。
「あいつは確かに昔から男で駄目になりそうなタイプではあったな」
運転手は短い髪を掻き毟りながらハンドルを切った。
「常に気を張ってないと駄目なんだ、だから誰かに優しくされるところっと負ける」
それは誰よりもリーダー自身がよく知っている。だけれどヌエに最後に会ってから時間が経っている。
ヌエがどう変化したのかは全く読めない。
空白の時間とは敵である。
最後に護身術の練習に付き合って貰った時、ヌエはずっと笑っていた。そして自分はそんなヌエにあと一歩のところで勝つ事が出来なかったのだ。
団地まであと五百メートル。運転手に指示を出し、路肩に車を止めさせる。
国家権力の力を借り、この辺り一帯は現在「裏山から謎のガス漏れ有、周辺住民は全員退避」という嘘情報を流したため一切人がいない。
団地こそは元から廃墟だが、そこから国道を挟んだ反対側にはまだいくつかの巨大マンションがあり、学校や大企業の工場、倉庫が稼働している。決して無人地帯ではないのであった。だからこそこの大きな廃墟の存在が異様なのであるが。
周囲を伺ってからリーダーと副衛生長が先に降りる。二人の合図と共に帯同してきた天狗隊員三名が続いた。真っ直ぐ正門を目指す。
そこにあったのは目を疑うような不思議な光景であった。
空がジグザグに切り取られている。そうとしか思えなかった。
これは夢なのだろうか?
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