「先制」

だから武器のメンテナンスを怠るなと言ったのに。

リーダーは心の中でそう叫びながらも男の背後から鉄パイプを使って首を絞めた。

支給させたピストルに不備があった。基本的に脅し用に使うつもりだったがこれでは何かあった時に対応出来ないではないか。

だから急きょ作戦変更、床に落ちていた鉄パイプを手に取った。

命を落とす前に男は気を失って倒れた。

手早く縄で拘束し、三人がかりで運びだし、車に投げ込む。

天狗の仕事は一先ずヌエの恋人の捕獲。

今夜団地に現れるという他のテロリスト達の対処はかまいたちに任せる。

捕獲のために敢えて副衛生長を帯同させていた。念のために睡眠薬を注射させた。リーダーが一瞬目を離した隙に副衛生長は男の瞼を無理やり開けて一回だけ舐めた。

男の所持品を確認する。財布。身分証。カード。携帯電話。偽造品もあるだろう、全て押収である。

この男はあくまで下見に来ている下っ端です。

かまいたちの報告にそうあった。余りに簡単にこの男は我々に捉えられたのだから間違ってはいないのだろうが、余りに簡単だったためにむしろ何かの罠である可能性を忘れてはいけない。

車を急がせる。

捕えられた男に対する公安の取り調べにリーダーのみ帯同することが許されたのだ。


車中で天狗のナンバーツーに後を頼むと連絡を入れると、リーダーはセーラー服からスーツに着替える。狭い。髪も改めて綺麗にまとめ直すと薄く化粧をした。

公安に指定された建物の地下に車をつける。

駐車場には我々の代表もいた。

関係者にまだ気を失ったままの男を引き渡して連れて行かせる。部下に選り分けさせた男の所持品も同時に引き渡してからリーダーは車を見送る。この後ここと団地の中間地点にあるホテルに臨時本部を作る事になっている。先に行かせて担当者と合流させ、セッティングだけさせる段取りだ。

リーダーは改めて代表に挨拶をした。常に密に連絡は取っているが、会うのは少し久しぶりだ。

「ご無沙汰しております」

丁寧に頭を下げると代表は淡々と建物内に入るように促した。

五十過ぎの中肉中背の男だ。

元自衛官であり、警察にも強いパイプがあるという事しか知らない。それでも非常に明晰で冷静、信頼出来る大人である事は流石に小娘の自分でもよくわかっている。

この人には逆らってはいけない。萎縮の必要はないが相手は大人である事。それだけは絶対に忘れてはいけない。

恐縮する程我々の部隊はこのドライな男に良くしてもらっている。むしろこの男無しには存在する事が出来ない。やはり「大人」の存在が必要なのだ。未成年の限界である。

「目を覚まし次第取り調べを始めるそうだ。隣の部屋から見る。今後の対策を練りながら」

代表のその言葉に背筋を伸ばして同意した。

その時リーダーの腕時計無線に副衛生長から連絡が入る。

………ねえリーダー、さっき私あの男の目を舐めて思ったんだけど、右目が義眼なんじゃないかなって思うの。今思うと感触がおかしかった。あの男、義眼の中に何か隠してるかもよ?大事な秘密。

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