「回想」

今でもあの傭兵部隊にいた時の事は鮮明に覚えている。

そして遥か昔の事も沢山私の頭の中にある。


ヌエは息を潜めていた。車を発進させようとした時、すぐ目の前を警察車両が通過したからだ。

今のヌエはテロリストとして複数の潜伏先を行ったり来たりしている。

落ち着かない生活に見えるが、確固たる意志があってやっている事だ。ただその意志を遂げるまでは無駄なトラブルは避けたい。それだけだ。

時にあの頃の生活に戻れるとしたら戻るだろうかと考える。

恐らく戻らない。

きちんと統制された組織で人の下で動く。

それはとても安心感のある生活だった。

だけれど外の世界は自由だ。

常に緊張感があるが、自由に自分の意思を人に言える生活。

外は広い。そして美しかった。

………この生活を本当は大事な人にも教えたかった。果たして可能なのだろうか。

人と人の関係は紐のようなもの。

世界が狭ければ狭い程それはこんがらがって密になり、愛とカンチガイしてしまう。

でも、例え遠く離れても切れない紐、切りたくない紐、蜘蛛の糸のように細くなっても繋がっている紐はある。


傭兵部隊にいた頃、新人にそのような話をした記憶がある。

愛とは紐のようなものだと。

新人はわからない、と言った。

しかしその新人はヌエの運転する車を降りる間際にそっと呟いたのだ。


「でも所謂赤い糸って目に見えないですよね、本当にあれがこの世にあるなら見えてくれてもいいのに。私は人の気持ちを察するのが苦手だから、見えてくれた方が楽ですね」


その言葉は何故かヌエの心に強く刺さった。肯定でも否定でもなくただ心に刺さったのである。

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