「面談」
半年に一度、代表とその秘書により隊員全員の個人面談が行われる。
大体四日間掛かるが、これは部隊を円滑にするためにはとても大切な行事だ。
この内容は全てデータ化され、分析され、書類としてリーダーに手渡される。
個人情報の固まり。
しかしその時期でなくとも不定期的に各部隊のトップは代表と何かしらの形で面談を取る。これもデータ化される。
リーダーは寝床で書類をめくる。
重要な任務が迫っている今、出来れば睡眠時間は取れる時に少しでも取りたい。忙しいが、体力も必要だからだ。しかしそううまくいかない。
彼女だけは個室を与えられている。
かつて用務員室だった場所を改造した部屋のため、狭くそして常に薄暗く空気が悪い。
そのため個室と言えども物をため込むことなどもっての外。決して優遇ではない。むしろ一番酷い環境で生活していると言える。何よりこの部屋は恐らくトイレから一番遠い。
頭の上で飛んでいる虫を手で追い払う。
ドアの前に置いていた蚊取り線香が既にこと切れている事に気が付いた。
過去の書類は全てファイリングされ美術準備室にある鍵付きの棚に厳重に収納されている。そこには面談資料以外の重要書類もあるが、余程の事がなければ目を通す機会は少ない。その棚の鍵は代表とリーダーしか持たない。
気になる記述がありリーダーは手を止めた。しばし考え込んだ後、鍵を手に部屋から出る。
時計を確認するともう消灯時間は過ぎている。足音が響かないように静かに歩く。
気配を消すということ。
記憶は朧だが、幼い頃から必要な時にそうする癖はついていた。対人が苦手なわけではない。しかし出来うる限り目立たないように目立たないように生きて来たつもりが今は一部隊のトップなのだからわからないものだ。とは言え「世間からは消された存在の部隊」の長なのだから、ある意味自分には合っているのかもしれないとも思う。
気になる書類を確認する。しばらくそこに立ち尽くし思案したが、これはおそらく本人に確認してもはぐらかされるだけだろう。
………衛生長は私のストーカーなのだ。
私と彼女がこの部隊にやってくる前からの。
衛生長が私のそばにいたがるのは何故か。本当に愛なのだろうか。
彼女が同じ土地の出身であることをリーダーは今の今まで知らなかった。
自分がその土地に住んでいたのは確か小学校の途中までの話だ。
しかし事情でその土地を離れてからの数年間が余りに過酷で、中学を卒業しこの部隊に入るまでの記憶が飛び飛びなのだ。
それなのに歩き方とか些細な体の癖だけは幼い頃から変わらない。それだけは何故かわかるのだ。
気分転換のつもりで屋上にこっそりと出る。
夜のとばりの中、まっ黒な森を見下ろす。
かすかに足が震える。本当は怖い。だけど少し緊張している状態の方が集中出来る。
頭の中に一本の紐が張りつめているような、そんな感覚。
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