「御前会議」
「明日から新しい任務に入る」
二十時。食堂に全部隊が集められた。
申し訳程度に回される扇風機はノイズで軋むばかり。背中が汗ばむ。
リーダーは狐火の新人にホワイトボードを持って来させると団地の地図を先ず貼り付ける。
今回の任務はテロ組織の壊滅、それの協力。
敵の素性がわけありである事、至急を要する隠密行動が必要な事等を理由にこの傭兵訓練所に協力依頼が来た。
無論公安、警察や自衛隊といった他の組織との連携は必須、あちらの仕事のフォローという形で我々は存在する。
兎に角早急に結果を出す事が求められるので、今回は特に数による包囲を必要としているようだ。
「我々はテロリストグループの中のひとりの女性の確保を命じられた」
リーダーはそう言いながらその女の写真をホワイトボードに張り出す。
その女は大体二十代半ば位だろうか。
肩に掛からない程度の髪がうねって顔を隠そうとしているが、その隙間から覗く目はナイフのようであった。
一部古株の隊員はその顔に見覚えがあった。ややざわめこうとする食堂をリーダーが黙らせる。
この写真の女は昨年までこの傭兵部隊にいた女だ。
十九歳で部隊を卒業後も外部契約のドライバーとしてしばらくこの部隊に関わっていた。故に現隊員でもそれなりに長くいる者は少なからず関わりがある。
「………ヌエ様か」
後ろの方で壁にもたれていた九尾が低い声で言った。
九尾の前任者。元は需品科の長であったヌエ。
ヌエは人をだまくらかす事に関しては天才的な才能を持っていた。
本来なら天狗部隊のリーダーになっても良い実力はあったが性格にかなりの難ありとされ後方に回されたのである。変人ではあったが腹の据わり方は大人顔負けであった。だがその性格の変人っぷりについては現衛生長の遥か上を行くだろう。
嘗ては共に国を守った仲間が今は敵となって目の前に現れようとしている。
何故この任務がこの傭兵部隊に依頼されたかがわかる。
彼女がどういう人間なのかよく知っている。だからこそどれだけ手強いか知っている。
そして彼女を捕える事、それは我々の威信を掛けた戦いである。自分達が産んだ罪人は自分達の手で粛清すべきである。
「今回の敵は特殊なタイプのテロ組織であると代表からは連絡を受けている」
全く何を考えているのか理解に苦しむ、というのが他の機関の見解だそうだ。なのでヌエをよく知る我々の協力を仰ぎたい、との事である。
「既にかまいたちに先陣を切らせて偵察させている。我々も明日の午後から順次動いていく」
かまいたちから通信兵に託されたノートの解析は今早急に行っている途中だ。
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