「狐火」
武器の管理を中心に後方支援を担当する需品科「狐火」の部屋はいつも薄暗い。
そして何故か真夏でも冷房を入れなくとも冷えている。
リーダーは新しい武器のチェックに立ち会った。
「狐火」のトップは九尾という名前だ。
ピストルのプルーフマークを確認する。このマークはヨーロッパの物だ。
指示を与えてから短期間でどうやってこれだけの数を調達したのか不思議ではあるがそれは後程報告書を提出させればいいだけの話である。
九尾は痩せているがリーダーより背が高い。そしてやる気があるのかないのかわからない。
パイプ椅子に座って長い足を投げ出して寝ているが、その足は速い、らしい。
狐火の間では有名な話のようだが、リーダーはまだ九尾が走っている姿を見た事がない。
九尾の部下二人が武器チェックに精を出し、リーダーがそれに付き合っている。
これは本来リーダーではなく九尾が立ち会うべきだ。しかし「私は簡単なチェックをして書類にハンコ押す役。この武器を実際に使うのはあんた達なんだから立ち会える時は立ち会って」と押し切られたのだった。
長身で腰まである黒髪の九尾に見下ろされると圧迫感がある。無論それに怯むリーダーではないのだが。
「天狗部隊、以下十五名、次の任務でこのピストルを護身用に携帯する。既に精鋭部隊は現場に送り込んでいるが、新たに近場に臨時本部を立てる。牛御前の連中に車を手配させるように」
書類を急ぎで書き込み九尾に押し付けた。
「それから今夜会議を開く。二十時に全員食堂に集まるように放送を掛けさせろ、そこで今回の任務について詳しい話をする」
九尾ではなく部下の方が慌ててメモを取り、急いで通信兵の待機する部屋に走って行った。
「なあ九尾、お前の部下は甲斐甲斐しいな」
呆れながらリーダーがそう言うと、九尾は鼻で笑った。
「こう見えてもリーダーの見てないところで仕事してるんだよ。私はプレッシャーに弱くてね、偉い人に見られてると緊張するんだ」
リーダーは九尾に同時にライフルのメンテナンスを命じて立ち去った。
これから忙しくなる。そう言い残して。
九尾はゆっくり立ち上がり、ライフルを手に取った。そして棚の方向にそれを向ける。
「衛生長、そこにいるんだろ」
九尾は全部知っている。この狭い世界にいる人間を全て見通している。棚の陰から衛生長がそっと顔を出した。
「サボりがバレなくて良かったな」
九尾が鼻で笑うと衛生長は「衛生長権限の公的な休憩だよ」と屈託なく答えた。
「久々にリーダーの声が聴けて満足だよ、最近忙しそうでろくに顔も見られなかったから嬉しいな」
あいつはいつもそうだ、忙しい。そしていつも怖い顔をして我々の前に立っている。それが仕事なのだ。そして隊員に畏怖と愛を示しているつもりでいる。
その時放送が入った。
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