「衛生班」

十人の衛生兵が集う衛生班。この部隊は「牛御前」と呼ばれる。

実際の主な業務はただの雑用係である。

本来需品科「狐火」の一部であった。しかし数回の戦闘を経て切り離した方が融通が利くと判断され晴れて独立部隊となったのである。

主に救護活動を中心としているが、化学兵器の使用の際には狐火と共同で行動することも多い。

牛御前も狐火も基本的に前線に立つだけの体力がないわけではない。だが過去の怪我や病気、性格等を理由に研修後に前線任務を外された者が配属される。何故かこの両部隊は変人しか揃っていない。

衛生長は過去に患った病気と怪我、更には親の影響で年齢の割に看護や医療に関する知識は膨大であったが仕事以外に関しては丸で駄目である。

いつもポケットに飴玉を入れている。食べない癖に「入っているだけで満足」するのだ。子供のようだ。

灼熱の現場に駆り出された時食べ物の粗相でスカートを汚し潔癖症の部下に洗濯をさせた。

潔癖症曰く衛生兵が不潔ではいけないという考えである。

その衛生長をサポートする副衛生長は変態であり「イケメンに眼球を舐められる妄想で戦うモチベーションを保っている」と豪語している。潔癖症以外は皆それに共感している。牛御前と狐火は皆仲が良い。

今日は特に衛生兵としての仕事はない。

午前中に二時間勉強会を行い、天気が良いからその後はひたすら洗濯と洗車、掃除の予定だ。

衛生長は新入りを中心とした四人を食堂担当の「ムジナ」のところに手伝いに行かせた。

食堂業務に専従しているムジナはたった四人しかいないため、手が空いたら必ず手伝いに行くのだ。残り六人をじゃんけんで洗車班と洗濯班に分ける。もし早く終わったら施設の掃除。

雑用は忙しい。

常に流動的に全ての部隊を手伝い、フォローし、柔らかく動かなくてはならない。衛生長の無茶苦茶で自由奔放な性格はこの部隊にとても向いていた。

ツインテールが風に揺れる。夏だ。清々しいほどの夏だ。


規定では長い髪は必ず結わく事。それが出来ない者はショートカットにすること。

きちんとルールはあり、それに乗っ取り運用される部隊。

規律を守れぬ者は人の命も守れない。世の理と言い換えてもいい。

だけどなんにだって規格外、例外はつきものだろう?衛生長はそれが口癖で、頻繁にリーダーの手を煩わせていた。大人数で行動する時はそれなりに秩序を保つ。だがひとりになると何もかもがいい加減になるのであった。


全員分の洗濯物を取り込んで畳んで仕分けるのは大変だ。それが一通り終わった時、衛生長は洗濯班に十五分の休憩を言い渡した。 食堂に行けば今ならムジナが麦茶位用意してくれるはずだ。

洗濯物を畳む時、たまに気まぐれでリーダーのシャツの胸ポケットにだけカードを入れる。かすかに香水の匂いがする。ただのサービス、好きだからやっている。最初の頃は何故そんな事をするのか問い詰められたりもしたが、「今どきの女子高生なら少し香水の匂いがした方がリアルだよ、怪しまれないよ。あんたはいつも怖い顔してるし、それくらいのギャップがあった方が良いと思う」と答えた。リーダーはしばらく考え込んでから「いいけど程々にしろ」と言って去って行った。

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