最終話:僕の選択

乾いた空気。

雲ひとつない空。

 機械的な臭いがするのは、ここが空港だからだろうか。


 年が変わって八月。

 僕はロサンゼルスの空港にいた。

 アメリカの日差しは熱くて強い。湿気がないからだろうか。眩しさに思わず目を細める。


 アメリカ留学の話をした時、母親はもちろん反対した。安定が保証が再就職がなくなると、連日説教された。しかし僕が退職した日から何も言わなくなり、そのうちアメリカについての記事やTVをよく見るようになっていた。

 そういうものなんだな。

と、思う。

 出発までの十ヶ月は、情報収集、入学手続、渡航準備、仕事の引継ぎ等でものすごく、忙しかった。充実していた。

 この気分の高揚は、昔確かに存在していた物を引っ張り出してきた、そんな気がした。

 北澤も同じ気分だったのだろうか。


 出発の前日まで、彼とメールのやり取りをしていた。

 現在旅行会社のアルバイトで、ツアーガイドのアシスタントをしているらしい。楽しくてたまらない様子が、文面から伝わってきた。


 再びロサンゼルスの空に目をやる。

 水色の絵の具だけを素直に塗った、まっすぐな空。

 雲ひとつない。


 北澤だ。

 そう思った。


 この空 の下で、僕は生きてゆく。

「一緒に、行こう」

 青空へ、笑いかけた。


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近い君、遠い僕。 浅野新 @a_rata

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