月を隠せ

昏き雲よ

 豊かに重き月を隠せ

 闇のものに気取らるるその前に

昏き雲よ

 密かに丸き月を隠せ

 彼方の瞳に吸い取らるるその前に


硬き指の戯れに

夜の子供が泣き叫ぶ

 その前に

  その前に

   転げ落ちるその前に


眠る古の樹々に

絡み繁り覆い尽くすツタの

歓びの声が耳朶を打つ

 その前に

  その前に

   果てなき夜の乾きに屈する

    その前に


瑪瑙の杯に石榴の汁を

捧げよ

呑み干せ

喉を鳴らして唇を濡らして

ひといきに

ひといきに


昏き雲よ

 月を隠せ

永い裳裾を手繰り寄せて

隠せ

 たとえ間に合わぬまでも

 間に合わぬまでも


 

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