ふと背中に

ふと 背中に なにかぽっかりと

 ぽっかりと しっとりとしたものを感じて

足を止め 息を吸い

ふりかえり


狂躁する機械の駆動に

サイレンの呼び声

赤赤と明明と明滅するランプが

妖魔の啼泣

倒壊する起重機が呻り

古の呪いの印を

破断するビルディング

今ここに

ここに

そこが


ふと 背中に なにかぽっかりと

 ぽっかりと ねっとりとしたものを感じて

足を止め 息を吸い

くるりと身をかわす


  膨れ上がったいきものが

 酩酊し昏倒する影の

ただ転がり転がりて

深淵へ沈殿する

  汚穢を撒き散らし

 高貴なる

喉を貫く刃が閃く


その時に

ただ

その時に

こそ


私は視て そしてうしなった

天球儀は砕け もどらず 尖った粉となり

私の眼球を覆い尽くした


過去と未来と幻想と現実が

幾重にもさらに幾重にも

閃光の槍となって襲い来て

私は

うしなった


耐えきれず倒れ嘔吐し痙攣する私の

背中で猿が笑った

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