うつつのことのは

西野八形

泉に

あなたの背中が歪む

 枯れた蘆が啼くように

あなたの背中が反り返る

 砕けたガラスを擦るように


黒糖のとろりと融ける眸が昏く

 眸が昏く私を舐める

潤む眸が私を舐める

 とろりと融けて潤んだ眸が

黒糖のとろりと融けて潤む眸が

 星座の彼方から薄い肩越しに

昏く私を舐める


舐める

 眼差しを滴らせ

舐める

  折れそうな背中を歪ませもだえながら

  眸が私を

舐める


あなたの背中が歪む

 枯れた蘆が啼くように

あなたの背中が反り返る

 砕けたガラスを擦るように


かつてはかろやかに広がった髪を

私は指で追い

 掬い

その重さにうちひしがれて

  梳き

眸から遥かに逃れながら

   絡め

歪む背中にひたすら顔を埋めれば


鉄の味が蜜となって私の舌を浸し


折れた蘆の呻きが はたり と絶えた。


鉄の味の蜜の涌き出でる泉となって あなたは

あなたは

 あなたには

  あなたの時は果て ただ泉となって

   もう黒糖の眸も蘆の声もなにもかも

  二度と

 私を


私を


私は


私には

 もはや何もないのだと悟り

   泉に溺れていったのだった。

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