第3話 ご依頼は幸福ですか
陰鬱とした曇り空が広がる。乾いた冷たい風が体を吹きつけぶるっと体が震える。紙封筒を抱え、墓地内を歩く。静かであるが、誰かの泣き声が墓地の外から聞こえ、物悲しい雰囲気に包まれていた。
数分歩いたところで目的の場所に着いた、仏花が添えられており線香にはまだ火がともっている。おそらく墓地の外にいる人が添えたものだろう。
その墓の前に屈みこみ封筒の封を開け、資料を取り出した。それから十分近くかけ依頼内容とその完遂について報告した。ぽつぽつと雨が降り始めた。依頼の報告がちょうど終わったところであった。
「ご依頼は達成致しました。報酬金は結構ですので、どうぞごゆっくりお休み下さい」
事務所に戻り今回の依頼についての事の顛末を記録用に仕上げる。雨が止み日が暮れ始めたころに書類がまとめ終わった。書類を"二部"、バインダーに新たに追加する。
それぞれの表紙には依頼者の名前が書かれており、木戸孝文と広瀬加奈と書かれていた。
バインダーを棚に戻し、椅子に深く座り込み目を閉じる。木戸孝文、彼と会った最後の顔を思い浮かべる。……彼は幸福な最後を迎えられたのだろうか。深く考えようとしたとき、鐘が鳴りドアが開く。
事務所に入ってきた若い女性が、ここは幸福屋ですかと尋ねてきた。私は立ち上がり姿勢を正して女性に向き直る。
「ようこそ、幸福屋へ。ご依頼は幸福ですか」
ご依頼は幸福ですか 緑川碧 @tsubaki_ao
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