夏の陽

夏休みに入ってすぐ、女子高生が殺される事件があった。


遺棄現場近くのスポーツセンター裏に大きな駐車場、そこの防犯カメラを押収し確認していた時だ。


夜6時過ぎ、真夏の夕方にその駐車場を走り抜ける女子高生が映った。一瞬心臓が止まりそうになる。


「この子は違いますね、このチェックのスカート、隣駅の都立高の制服でしたっけ?あそこ公立の割に指定の制服がちょっと変わってて有名なんですよね。今回の被害者はその近くの私立高の生徒でしたよね」

横にいる後輩が画面を指差す。


私はこの都立高の少女をよく知っている。しかし今は驚きの余り声が出せなかった。


数分後、今回の事件の被害者がひとりでゆっくり横切っていく姿が映った。

この私立高は襟に特徴があるシャツとカバンのため、少し荒い映像でも判断しやすかった。


スポーツセンターの駐車場は図書館から駅までの近道となっているため、学生が通る事は珍しくない。

脳内でもう一度今の映像を反芻する。


先に駐車場を走り抜けた都立高校の制服を着た少女。


私は彼女を良く知っている。


彼女はもうこの世の人ではない。


3年前、自分が刑事になって間もない頃に担当した事件の被害者であった。


犯人はすぐ捕まえた。


しかし彼女は未だ自分が死んだ事に気付かずこの街を走り抜けている。


そして何故か時折このような形で「視認されてしまう」のだ。


大体は私にしか見えない。9割9分の確率で私にしか見えない。しかしごく稀に他の人間にも見えてしまう事がある。


聞き込みに行った店のガラス窓に、犯行現場の公衆トイレの鏡に、署に戻る途中に不意に目に入った水たまりに。そんな些細な瞬間に彼女は不意打ちで視界に入ってくる。


不思議な事に彼女がなんらかの形で私の目に映る時、その時抱えている事件はとてつもなくどんづまりに見えても必ず3日以内に解決するというジンクスがある。


これは署内でもまだ一部の人間しか知らない暗黙の了解だ。私がまだ勤続年数の少ない刑事だからこそ余り多くの人間には知られていない。


今、私の隣であくびをしている後輩はまだ知らない。

しかし彼も今回初めて彼女を視認してしまった以上近い内に話さなくてはならないだろう。

特に今回寄りによって防犯カメラに映ってしまった。

こんな派手な形で彼女が現れるのは初めての事だ。

上司のおかげで幾つかの重要なポイントに私の味方がいるとはいえ、ここまで派手な事をされると黙っているのも難しい。マスコミに流す映像はどうとでも誤魔化せる。しかし身内を誤魔化すのは時に骨が折れる。


不思議な事に彼女の亡霊はいつも笑顔だ。

それがむしろ辛い。

早く成仏してあの世で幸せになって欲しいと願う事すらある。

しかしその笑顔が必ず悪人の逮捕に繋がっていくのだ。

亡霊による制裁、いや、むしろ仇討ちと言うべきか。


天は見ている。


それはあながち嘘ではない。

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