三叉路にて。


恋人と同棲を始めて半年が過ぎた。

付き合い始めてからは2年近く、それなりになんでもあけすけに言い合える程度の仲だ。

恋人はとても勘が鋭い。というより最初の印象は「利発」だった。

だがしかし、実際はただ頭が回るというだけの人ではなかった。


同棲を始めてから「少し先の事が見えてしまう特異体質」であるとカミングアウトされた。

ある意味霊感みたいなものだから一緒に住む以上迷惑掛けると困るから、というのが恋人の弁である。

最初は少し胡散臭く思っていたが、ある事件をきっかけに信じざるを得なくなった。


初夏の夜。

部屋で軽く呑んだ後、酔いざましに散歩に出た。

夜道をぶらぶら歩いている途中、ふと恋人が「アイス食べたいからコンビニ寄ろう」と言い出した。

少し歩いたところで三叉路に差し掛かる。

右の道を1分歩けば青い看板のコンビニ、左の道を3分歩けば数字の看板のコンビニ。

面倒だから近い方が良い、と私が訴えると恋人は渋い顔を見せる。

「うーん、俺が欲しいアイスはそっちのコンビニにはないんだよ、それに今日はなんとなくこっちに行きたい気分」

そう言いながら私の腕を強く引っ張って左の道を歩き出した。

少し遠い、数字の看板のコンビニ。

彼のセリフは完全に棒読みだったのだが、逆らうのも面倒で私は引きずられた。


店を出てアイス片手に満足気な恋人の横顔を見上げる。

「じゃあ帰ろうか」

そう言い掛けた時、パトカーのサイレンが聞こえた。しかし特に気にせず家路についた。


丁度その時間、青い看板の方のコンビニに強盗が入っていたのだった。


その事件を知ったのは翌日である。

恋人に「ねえ『少し先が見える』って本当に本当なの?だから昨日無理矢理あっちのコンビニに行ったの?」と聞くと、真顔で「うん、そうだよ」と答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る