第84話 キス表現あります

 33歳の2月にパースに入り、3月から6年契約でスペシャルドクターとして、エドをボスとする病院で働く。

 その年の7月。

 私の誕生日である7月27日。34歳を迎えた日に、博人さんがパース入りを果たした。まだ博人さんに言ってない事がある。

 左目のことだ。

 いつかは言わないと、と心に決めた私はそれを実行に移したのは、半年も経った翌年の1月だ。


 意を決した私は、博人さんに飲み物を出し、話があると言って、無理やりソファに座らせて、その横に私は座る。

 この人はシンガポールでの銃撃戦の事は知っている。

 知らないのは、私の左目の事だけだ。


 「実は…」と口を開き、左目が見えない事を言った。

 そしてメスが持てない事をも言った。

 黙って聞いてた博人さんは、静かに口を開いた。

 「一緒に住んでると分かるよ。何かが変だと、ね。あの時は身体には擦り傷しかなくて安心したけど、まさかそっちの方だとは思いもしなかった」

 博人さんは、私を抱きしめ優しく頭を撫でてくる。

 「頭や顔だけでなく、目もだなんて…」

 泣いてるのかと思われる声で、言ってくれる。

 「黙っててごめんなさい。だけど、いつかは言わないと、と思っていた。あれから1年経ったけど、まだ生々しく覚えてるんだ」

 忘れることはできない。


 そう言うと、博人さんはこう言ってくれた。

 「無理に忘れようとしなくても良い。忘れようとすると、もっと酷くなるぞ」

 博人さんらしい言葉だった。

 「友明の方から言ってくれて、ありがとう」

 そう言って、私を抱きしめてくれた。

 私も博人さんを抱きしめると、博人さんは私の額にキスをしてきた。

 しばらく抱き合って一安心した私は、脳内計画を博人さんに言っていた。


 「どう思う?」

 「メンタルクリニックね…」

 「そう、それ!エドは紅茶を作ってるし、エステ的な物でも良いし、迷ってるの。その考えを書面に書き出して眺めてるのだけど、確実性に乏しいなと思っててね…。場所は、この家でも良いかなと思ってる。広いからそういったのが出来ると思ってるんだ。住むのは隣の家でも良いし、奥の離れでも良い」


 すると、博人さんはこう言ってくれた。

 「なるほど。私も何か考えておくか」

 その言葉が聞けて嬉しいな。

 「よろしく」と、力強くお願いした。


 私は博人さんの胸に頭と背中を預け、そのまま温もりを感じていた。

 博人さんの手の温もりが頬に感じる。

 キスされる。

 そう思うと目を閉じて、自分から博人さんに抱きついていた。


 頬にキスされ、唇にもキスされていく。

 博人さんの手が私の腹を擦ってる。

 「ふっ…」


 思わず声が震える。

 すると、手の動きが止まった。

 「え…、なんで?」

 「ベッドに行く」

 その言葉を聞いた私は、首に腕を回した。

 「抱っこして連れてって」とおねだりしたら、「我儘な姫様だな」と軽く睨まれたが、連れてってくれた。


 そして、3年経った37歳の12月。

 私は、自分の家でクリニックを始めた。

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