第83話 次なる勤務地

 パースに1ヶ月以上も居たせいか、日本に居るような気がする。

 あと1週間で帰国すると思うと、なんか寂しいな。

 エド・ボスのGPにナースとして働いてるエミリーとは、メルアドを交換した。

 本人を目の前にすると言えないのだけど、まるでお母ちゃんと居るような錯覚を起こすんだよね。

 

 そして、エド・ボス。

 私がシンガポールに居た時オファーを掛けてくれた、多国籍スペシャル病院のボス。彼は、ゲイだと私に打ち明けてくれたのには驚いた。


 そして、パースに居る間に私は次なる仕事先を決めた。

 お母ちゃんに言ったら、「それならジェフェリーにも言いなさい」と言われたので、ジェフェリーの家に行って話してきたのは一昨日のことだ。


 パースに着いた当時、ジェフェリーから名刺をもらった時は、「いつ来てもいい。歓迎するよ」と言ってくれたものだ。

 ジェフェリーは自分の仕事をしながら、この家の管理もしてくれてる。

 本人は息抜きにもなるから苦ではないと言ってくれるが、奥さんであるミランダは嫌ってる。彼は日中は仕事で居ないが、私は日中は暇で庭や温室いじりをしていたので分かってる。

 私は、2人を前にして話した。

 「ここで暮らしたい。母の家は、子供である私が住むので管理はいらない。それは出来ないことだろうか」

 ジェフェリーは驚いていたが、ミランダの方が先に口を開いた。

 「そうするのが普通よ」と。

 ジェフェリーはミランダを睨んでいたが、ミランダは見るからに安心しきった表情になった。


 別に永住しようという気はない。

 だけど、管理人としてのジェフェリーの仕事ぶりは目を瞠るものがあった。

 それは調べれば、すぐに分かったからだ。

 管理人としてのギャラを貰いながら、修繕費だ何だと言って、お母ちゃんに請求していただろう二重の報酬を手にしてたと思われる。

 おそらくミランダは、その事を知っていたのだろう。

 そして、その報酬はジェフェリーの手からミランダには渡されてなかった。

 私が住むと言ったから、ジェフェリーは自分の小遣いが無くなると思い、ミランダは安心してジェフェリーには何も言わせなかったのだろう。


 もう、私の家になるのだから、退職金とかは払わない。

 4年間も、そうやって二重のギャラを貰っていたのだから十分なはずだ。

 出て行ってもらおう。


 ミランダは、私に言ってきた。

「私達は、ここから出ていく。既に家は手にしているから。家財等は貴方にあげる」との事だった。


 お母ちゃんに必要な事だけを報告すると、「私はどっちでも良い。だけど、ここに住むというのは簡単ではないわよ」との一言だけだった。

 そうなると、善は急げだ。

 弁護士を呼んで、ここの家の持ち主の名義変更をした。

 手続きは、それだけだった。


 え…、それだけ?

 なんか肩透かしをくらった気分だった。


 数日後、ジェフェリー一家は家財を置きっぱなしにして出て行った。

 「家財は、トモにあげる。今までありがとう」と置手紙が置いてあった。

 でも、他人が使ったものは欲しくない。

 なので、売れるものは売って、あとはフリマに出したら完売した。

 

 パスポートの更新まで6年少しある。

 エド・ボスは「3年と5年、どっちが良い?」なんて意地悪な事を言ってくれるが、それでも就労ビザを発行してくれるので、再度オファーを受けてスペシャルに就労。今度はオペドクターではなく、リハビリ科の方になった。

 エド・ボス曰く、「左目と頭を超えていくには、ちょうどいいチャンスだ」と。


 自分の持家となった、この家。

 休日はパンでも焼いて食べるのもありだな。

 そして、博人さんを呼ぼう。

 来てくれるかな。



 そして、今夜、日本に帰国する。

 エド・ボスが空港まで送ってくれた。

 書類が揃ったら送ると言ってくれたので、お願いしますと頭を下げた。


 福岡に戻った私は博人さんにメールしたら、すぐに返信がきた。

 溜息だけのが…。そして、もう1通が少し遅れてきた。

 「分かった」と。


 その年の12月。

 エド・ボスから書類一式が送られてきた。

 シンガポールからの書類も含まれており、そのサインはどう見てもジョンが書いたものだった。おそらくエド・ボスはアンソニーに内緒にしたいという私の気持ちを見抜いたのだろう。

 書類に目を通しサインしたらコピーを取り、日本で必要な書類を付けたし送った。翌年の1月末には無事に就労ビザが手元に届いた。


 2月に入ると、お母ちゃんの誕生日を祝い、月末近くの土曜日。

 今度は、夏のオーストラリアへ向かった。

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