第66話 次なる勤務地はシンガポール
昨日は、シンガポールで住む3年間の間の住まいであるフラットの掃除をしたり、買い物をしたりと過ごしていた。
その翌日、喜び勇んで勤務先の病院に行くと、スタッフルームに設置されているロッカーには、既に私の名札が掛けられていた。
日本から持参してきた白衣をTシャツの上から羽織ると、その名札を首にかけ、名札に付いていた書類に目を通し、直の上司となる皮膚科のニックに会いに行く。
そう、私の専門は皮膚科だ。
皮膚科を侮るなかれ。
乳幼児から年を召した方まで、幅広い年齢層の方々が患うものなんだよ。
ニックに会うと自己紹介した後、すぐに仕事が始まった。
注意されたことは、一つだけ。
この病院では、ドイツ語しか喋らないドクターもいるからドイツ語か、もしくは英米語で話すようにと言われた。
基本的に、夜勤は1科につき1人は出る。いわゆる、どんな科に患者が来ても専科のドクターがいるから安心というものだ。
私は1週間後から夜勤に組み込まれた。初めての夜勤を経験し、日本とは格が違うと感じたものだった。
その初の夜勤明けの日。
皮膚科では、朝一でモーニング勉強会が組み込まれていた。
勉強会の始まる時間まで、スタッフルームで休憩していたら、多人数の気配がしてきた。なんだろうと思って、そっちの方に目をやる。
「えっ」
思わず声が出てしまい、驚いてその人をジッと見ていた。
視線を感じたのだろうか、その人はこっちを振り向き睨んでくる。
その睨み視線が、私を捉えると今度は目を瞠っていた。
そのうち苦笑顔になり、笑顔になった。
その人は、私の方に向かってくる。
あと数歩というところで、ニックに声を掛けられた。
「トモ、時間だ」
OKと返事をして自分の書類を持って、デスクに戻る。
振り向き様その人をチラッとみると、その顔には笑顔はなかった。
どうして、アンソニーがここに居るんだ。
ドイツではなかったのか。
その後、すぐに分かった。
ニックに、あの人は誰?と聞いたら、教えてくれたのだ。
アンソニーは、ここの病院のボスであり『マスター』と、呼ばれてると。
え…、ボスって、ここの病院のボスということだったのか?
アンソニーの片腕となり、働いてるジョン。
ジョンもそうだが、アンソニーも表裏の顔を持っている。
数ヶ月もすると、その2人の裏顔を知るようになった。
その2人の裏顔や関係を知ったのは、ある事件に巻き込まれたからだ。
アンソニーが、病院のボスだけではなくマフィアと関係があることを。
ジョンは、そのマフィアのドンからの頼みでアンソニーを見守ってることを。
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