第64話 誕生日プレゼント

 翌日。

 目が覚めると、博人先生は私が起きるのを待ってくれたみたいだ。

 その手には、昨夜、私にプレゼントしてくれた物を持っている。


 い…。いっやぁー、似合わん、似合わん。

 絶対に似合わないから、やめてっ。

 と言って逃げてる私を、寝技でベッドに押し付けて、それを付けてこようとしてくる。

 ベッドで寝技を掛けると、抜けることが出来ないのを承知の上で掛けてきたのだろうな。これが板の間とかフローリングとか固かったら、また違ったのにな。


 そう、昨夜プレゼントされた物は2点ある。

 1点は、ブルーダイヤが白いもふもふに囲まれているイヤリング。

 もう1点は、イヤリングと同じデザインのブルーダイヤが銀のもふもふに埋め込まれているペンダント。

 似合わないー。


 なのに、博人さんは「うん、よく似合ってる。可愛い」と言ってニコニコとしている。しかも、写メってくれるし……。

 それだけは止めてほしかった。


 数日後の7月24日。

 博人さんはドイツへ飛んだ。

 祖父が危篤との連絡が入ったからだ。

 博人さんが、私に告白してきた日の夜。

 あの電話を鳴りっぱなしにさせていたのは、ドイツからの国際電話だったらしい。


 27日の午前中、1人で25歳を迎えた。

 しきりに、博人さんは言ってくれたのだ。

 27日は行けれなくなったけど、マンションにはまだ居ろよ!と。

 その理由が、これだとは思ってもなかった。


 博人さんはドイツに居るのに、時計店から誕生日プレゼントが届けられたのだ。

 「予約日時を承っていたので、お届に参りました」と、その店員は言っていた。


 包装を解き箱を開けると、MAURICE LACROIXの腕時計が入っていた。

 上品な茶色のバンドで、飽きのこないシックな感じの時計だ。

 そして、メッセージが添えられていた。

 『☆彡Happy Birthday


 これからも、よろしく。 

           by 博人 ☆ 』



 博人先生らしい言葉に、思わず微笑んでいた。

 「ありがとう」と呟いた私は、その日は贈られてきた腕時計を眺めて至福な時を過ごした。

 しかし、なんてタイムリーなプレゼントなんだ。

 自分のはあの事故で壊れたから、とっても嬉しい。

 そういえば、スマホも壊れたままだね。


 そして夜が明けた28日の朝、その腕時計を嵌めて福岡の家に帰った。

 



 3ヶ月後の10月末。

 博人は、まだ日本には帰れないでいた。

 そして、ドイツで40歳を迎えたのだった。

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