第49話 就寝巡回

 ここ最近、私の日課になってる就寝後の巡回。

 本当は夜勤当番や看護婦がするのだけど、私もしてる。それは友明と会える唯一の接点だからだ。寝顔を見ることだけなんだけど、たまに寝言が聞ける。


 この日も、同じように巡回しようとしていた。

 病室に入ると、寝言かと思えるほどの至極小さめの声が断続的に聞こえる。

 もしかして、喘いでる?

 エッチな夢でも見てるのかな、と思いながらベッドに近づく。

 すると、頭を抱えて呻いてるのが見えた。

 「とも。友明。大丈夫か、友明?」

 「ぅ… っ…」

 「友明、どうした?」

 「あっ! つぅっ・・・」

 抱きしめてやろうとしたが、抵抗してくる。


 「ともっ、友明っ!」

 ギュウっと抱きしめてやる。

 しばらくすると、抵抗してもがいてた身体から力が抜け、スースーと寝息が聞こえてきた。

 もしかして、あの事故の出来事が夢に出てきたのか。恐ろしかっただろうに、顔も頭の形も変わってるからな。久しぶりに友明の体温を感じ、今日の外出はどうだったのだろうかと聞きたくなったが、寝てるから聞けない。


 本音を言えば、このままずっと抱いていたい。

 だが、仕事中だ。

 ベッドに横たわせ、しばらく寝顔を見て様子見していた。

 眠気が来そうになり、仕事に戻ろうと踵を返し歩き出すと、何かに引っ張られてる気がするので振り返り見ると、友明の左手が私の白衣の裾を握ってる。

 行くな、と言ってるようだ。


 思わず微笑んでいた。

 「私は仕事中です。友明が手を離してくれないと行けれない」と言いながら、友明の左手を白衣から離した。


 おやすみ友明。


 明け方近くになり、再び同じ事が起きたらしい。

 その時間は、たまたま寝ていたので分からなかった。

 早番の看護婦が巡回に行った時に見かけてコールをし、私は叩き起こされた。


 友明の身体から力が抜けてる。

 生きようとする気配が感じられない。


 思わず言っていた。

 「友明っ!ドイツ料理食べに行くんだろ。合気道の師匠になるんだろう。せっかく医師免許取って医者になったのに、なってすぐに死んでどうするっ」


 看護婦に振り向き、怒鳴っていた。

「親にはっ」

「連絡しました」

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