第38話 頬叩き

 仕事が終わりマンションに帰ってきたのは夜中を過ぎていた。

 エレベーターに乗るとすぐに、エントランスから「荷物をお預かりしてます」と言ってきたのでエントランスに寄った。

 「荷物って何?」

 「こちらです。勝手ながら中身を確認させてもらいました」

 ダンボールの中を覗くと、そこには友明のマンションに置いてきたスーツや服が入っていた。

 「何時頃・・・」

 「夕方過ぎです」

 「あのバカ。なんで…」

 「お手紙も預かってます」

 差し出された手紙を開くと、そこには簡単に書かれていた。

 『福山博人様

 衣類を持って来ました。 友より』


 それを見るとグシャッと握りつぶしていた。

 「台車を」

 エントランスから台車を借りて、今来たルートで駐車場へ戻って行った。

 台車ごと車に積んで友明のマンションに行き、煩いぐらいに呼び鈴を鳴らす。

 なかなか出てこないのでエントランスに問いただしてもらう。

 エントランスのスタッフが開けてくれて中に入れたが、肝心なのは部屋に入れるかどうかだ。


 部屋の前に立ち、煩く呼び鈴を鳴らす。

 ドタドタと音が聞こえ、ガチャとドアが開く。

 「煩いっ!何時だと思ってるんだ!」

 その言葉には構わず、開いたドアに台車を挟んでドアを閉まらせないようにする。

 「そこどけ。中に入れるんだから」

 え、ひろっ…。

 驚いてる友明を無視し、「入るぞ」と言って中に入り、ドアを閉めた。

 中に入った私は、腹いせで顔を殴った。


 パンッ!


 小気味いい音がした。

 人の顔を殴るなんて今までした事がなかったので、少しだけどスッキリした。

 ダンボールを見せながら聞く。

 「これはなんだ?」

 「…だよ」

 「聞こえん」

 「邪魔なんだよ」

 「何が邪魔なんだ?使ってないクロー」

 「1年経った!たくさん置いて、そのままで…。何のために、ここに置くの?」

 この1年間、一度も来てないし、連絡もないし、私だって暇じゃない。


 「帰れ!持って帰っ…」


 パシーンッ!

 もう1回、顔を殴った。

 「勝手に持って来たのは私だ。それでも置いても良いですよと、言ったのは誰だ?」

 「置いて、そのままじゃないか!あの時に持って帰れば良かったんだ」


 もしかして呑んでる?

 リビングに行くとテーブルの上には酒瓶が1本まるごと残っているが、もう1本は空だった。

 グラスには殆ど残ってなかった。

 キッチンに行き、グラスに水を入れてると、私の後を追いついてきた友明に向けて浴びせるが、避けられてしまう。

 「シラフの状態で話しがしたいだけなんだ」と言うと、何も話すことは無いと言ってきた。

 何があった?

 ここまで荒れてるのを見るのは初めてだ。

 すると、先ほどの水で床が水浸しになってたのか、滑り転んでいくのを見た。

 酔ってるから、床の状態まで見えてなかったのか。


 ゴン!


 という音が聞こえた。

 もしかして頭を打った?大丈夫なのかな…。

 廊下を覗くと、尻に手をやり「いてて…」と呟いてたので、一安心した。


 そのまま寝てしまいそうな気がしたので、寝室まで運びベッドに横たわす。

 尻を打ったみたいなので、尻の様子を診るために下半身を脱がす。

 うーん…。

 少し腫れてるみたいだな。

 湿布でも貼っとくかと思い、段ボールの中に入れていたドクターバッグを取りに玄関に行き戻ってきた。

 尻に貼るのには、割れ目を少し開かないと上手く貼れないことに気づき、左右に開く。そのままの状態で湿布を手にして腫れてる所に貼ろうと目を持っていく。


 え、なんだこれは。

 尻の辺りには傷が付いてる。

 もしかして?

 もっと押し開き孔に指を突っ込もうとすると、入口には腫れてる感も見受けられる。

 それでか!

 だから、あんなにも荒れてたのか。

 こんなにも傷をつけられて相手が下手なのか、それとも抵抗をしたから傷をつけられたか。

 腫れてるということは、中は解れてるということだな。そう思い指を入れていく。

 ん……、入らない?腫れてるのにか?

 ええい!

 力を入れて中に入れようとするが中がどうかなってるのか?


 キッチンに行き、オリーブオイルを持って戻る。

 尻から孔に向けて垂れ流すと、友明の体はビクッと揺れる。

 再び、指を突っ込む。

 そこで気がついた。

 腫れてるのは外側だけだ、中は全くと言っていいほど解れてない。


 私は医者だけど、メスを持っての医者だ。

 外科ではなく、胃腸科が専門の医者だ。


 まぁ、でも…、私の病院には胃腸科だけではなく、内科、整形に脳外科、小児科もあるから一応は診れる。


 言い訳ばかり並べ立ててるが、この1年間は何か暇があるとこいつの事を思い出してた。自分の大事な物を削除とか言われて、誰がのこのこと来る?

 服を置いてるのは分かってた、どうすればいいのか分からず悩んでた。

 こいつは、私の彼女でも恋人でもない。

 どちらかと言えば、憎い男だ。

 それでも気になるのはどうしてだろう。

 とにかく孔が傷だらけというのは気になるが、中は解れてないので大丈夫だろう。そう判断すると、ホットタオルを作りオイルを垂らした部分を拭いていった。


 もう何もする気がなくベッドに横たわると、久々に友明の体温を感じながら寝ていた。こいつと居ると、自然と眠気が襲ってくるのは何故なんだろう…。


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