第34話 福山博人Side

 友明からメールがあったが、仕事の為そっけない返事しか出来なかった。

 だが、昨夜は夜勤だったので今日はもう上がるか。

 午前の部が終わると同時に事務室に顔を出し、上がることを告げる。

 車に乗ると、すぐにメールした。結果的にはスーパーで友明を拾い、友明の住んでるマンションに行くことにした。


 そうだ、この際だと思い着替えを数セット持っていこう。

 時々、そこから直に病院に行けばいい。

 そう思うと楽しみになってきた。


 買い物を済ませた友明をスーパーで乗せて、マンションに向かった。

 夕食まで時間があり、シャワー浴びてきてもいいと言うので、先に浴びることにした。

 夕食にはパエリアとサラダ。

 少しカリカリ気味に焼けたガーリックパン。

 そこに、私の持ってきたワインを飲む。


 飲み過ぎると朗らかになりおしゃべりしてくる友明には、少しペースダウンしてもらおう。

 すると弟の話しをしてきては、そのまま話題はお互いの好きな人という話しになった。話しを聞いてると、どうやら好きな人はいないみたいだ。

 「強いて言うなら…」と言い出したから当ててやろうと思い、遮って私の方から言ってやった。

 「好きな物は勉強です、っていう言葉ではないだろうな」

 この言葉に対しての返事はなく、笑って誤魔化して私に振ってきた。

 「片思いだが、好きな人はいる」

 そう言うとビックリしていたが当然だろう。私を何歳だと思ってる?

 紅茶のお代わりを貰って飲んでいたが、友明は片付けにキッチンに行ってしまった。だが、その内に壁やら床を拭いてる感じを受けていたら、リビングの床まで拭いてる。

 …え?思わず言っていた。

 「大理石の床まで拭くのか?」と。

 返事はすぐにきた。

 「大理石とは言え、汚れは付きますから」


 なにかイラついてるみたいだ。

 掃除も終わり、「寝て帰られますか?」と聞かれ、持ってきたケースを見せながら言った。

 「そのつもりで着替えを持ってきた。

 一々着替えに戻るよりも、ここから仕事に行きたいから」と。

 そしたら、なんか顔色が明るくなったようだ。

 そこで思い立った。

 ああ、そうか。酒を飲んだからか。

 酒を飲むと朗らかになりお喋りになるが、表情まで違ってくるのか、と気がついた。喜怒哀楽が表情に出てくるのを見るのも、いいかも。


 寝室に案内され、その部屋のクローゼットに置かせてもらう。

 2ケース分をそこのクローゼットに入れていく。

「終わった」と、思わず声に出ていた。

 少し話しをして、シャワーを浴びに行ってる友明を待ってる間、ベッドに横たわり軽くストレッチをして寝る準備に入る。 

 そうそう、忘れてはならない日課を。

 iPhoneの彼女を。

 彼女を思いながら少し眠気がきた時に、友明が入ってきた。

 湯気で少し紅くなっており、ちょっと目の毒だ。

 私がじっとiPhoneを見てるのが気になったのだろう。

 案の定、聞いてきた。

 面白いもの、と言ってきたが「片思いの相手の写真。毎晩見ては心癒されて寝るんだ。私の日課だ」と素直に答えた。

 その時は感じなかった。

「見たい」と言ったので、見せたらジッと黙って見てる。


 暫らく待ってたが、そろそろ返してもらおうと思ってたら、耳を疑う言葉を聞いた。

 「削除決定」

 なに?

 「言っとくが、その女は現実には居ない人間だ。いつまでも昔に浸るな」

 それを聞き、私はブチ切れた。


 他人が大切にして、ずっと心の支えにしてきたものを削除するだと。

 何が現実には居ない人間なんだ。

 いるからこそ、私は写真撮ったんだ。

 お前に何が分かるっ!


 相手は20代だろうが、構わず怒鳴りつけた。

 そしたら、ペラペラと喋ってきた。

 マルクのことを医学オタクと言うし…。

 私は、マルクから聞いた言葉を思い出していた。


 『ねえ、ヒロ。今、開催されてるフェスに日本の大学から交流歌を歌いに来てる学生達がいるんだ。

 初日と2日目に歌っててね、明後日の最終日にはファイナルを歌うんだ。私は最終日に聴きに行くのだけど、ヒロも聴きに来ないかい?』

 それに対して「最終日なら行けるかもしれない」と返事をした。

 『午後13時から18時までだから』

 間に合うかもしれないと思い、行くと約束した。


 当日、17時過ぎに会場に着いたが、どこに居るのかすぐには分からなかった。

 そうしてると写真を撮りますという日本語が聞こえてきたので、そっちに目をやるとマルクは居た。

 しかも、隣には私好みの美女が立っていた。

 マルクは彼女の腰に腕を絡ませたり、手を触ったりと異常なほどのボディタッチをしていた。

 顔をしかめて見ていたが、チャンスだ撮ろうと思い、持ってきたカメラで撮りまくっていた。

 マルクの方に数歩だが寄って行き、そこでも撮る。そうしてると、マルクは私に気付き手を振ってくれて、彼女をこっちに振り向かせてくれた。一緒に写ってるのを数枚撮って、マルクがこっちに来るのを、そこで待っていた。

 その内の1枚を、笑顔の写真を自分のiPhoneに取り入れたのだ。


 思い出した。

 そうだ、あれはセクハラだ。

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