第28話 泣いて良いんだよ。俺が抱いてやるから!

 さて、実地の準備しますか。

 結局は、ひろちゃんの所は無理だったそうで、他の病院に行くことになった。

 付属から始めて、後はおいおいと決めていく。


 実地になると忙しくなるぞという事で…、優人にはマンションに移るという事を言った。

 あっちの方が大学まで徒歩で行けるし、交通の便も良い。

 キッチンはあるが、物が無い。

 冷蔵庫と洗濯機はあるので、キッチン関係を買えば済むだけだ。

 クローゼットがウォーキングだし、ベッドもある。

 しかし…、お父ちゃんは東京に来る時は、どこに住んでんだ?

 と思ってたら、もう二つマンションがあるとのこと。

 いくつ持ってるんだ!

 お母ちゃんには、広すぎなマンションに移るからと伝えた。

 電気水道は通ってるので、ここに移り住む事をお父ちゃんにメールしとく。

 2LDKという間取りだが、部屋が広いのなんの。

 キングサイズのベッドが置いてある部屋を寝室にする。

 寝室だけでも30畳近くあるだろう。

 服を置いてる部屋はリビングと続きで100ぐらい?

 キッチンも6ぐらいあるし、風呂トイレも付いてる。

 ほんと、贅沢だよな…。

 ひろちゃん家と良い勝負だわ。


 完全に引っ越す前に、優介と会わないといけない。

 ピンポンと呼び鈴を鳴らすが、出てこない。

 「優介?居るのか?」

 門から声を掛けるが、応答がなく中に入る。

 「優介?入るぞ」と言いながらドアノブを回す。

 無用心だなあ、泥棒が入ってくるぞ。

 今月は、まだ家に居るはずだ。

 「優介?どこだ?」

 家の中をキョロキョロしてたら、気配を感じた。 

 その気配の方に向かう。

 向かった先には、横になってる優介が居た。

 5歳の子供には酷な事だろう。

 それでも、優介のことを思うと、やはり親戚の所に行くのが一番だ。

 コンコンッと壁を叩き、「優介、大丈夫か?」と声を掛けた。

 肩がびくりと動いたのが分かった。

 起きてる、まだ生きてると思える仕草だった。


 「優介、ご飯は食べてるか?これ作ってきたのだけどおやつにしよう」

 と目の前に出した。

 私が優介によく作ってやってた物だ。

 私の方に振り向いた優介は顔つきが、身体の線が細くなっていた。手には康介の位牌を握り締めている。

 抱きついてきた優介を抱きしめてやった私は、昔の自分を思い出していた。

 「優介、泣きたい時は思いっきり泣け。抱いててやるから」

 小さな手が私の首に抱きついてきて、優介は声を出して泣いた。

 暫らくすると泣き疲れたのか、いつの間にか寝ていた。

 私の服を握ったままで、服を涙で濡らしてくれた優介は安心しきった表情をして眠っていた。


 すると、知った気配を感じた。

 「ボス」

 「サトルか。どした、呼び鈴鳴らなかったけど?」

 「鳴らしましたよ」

 …え、鳴らなかったよ。

 「その子の事で、調べてたのですが」

 「なにか分かったのか?」

 「親戚一同が積極的にその子を育てようとしてる目的は、その子の財産狙いみたいです。元々は、その子の祖父名義だったのですが、ここら辺一帯の大地主だったようで、亡くなった後は息子である康介名義になった。その時は、すでに息子である優介君は生まれていたので、親戚一同は歯痒い思いをしてたようです。でも、その子の父親が亡くなった現在は、子供である優介名義になる。

 だけど、その子はまだ5歳だ。11月に6歳になるが、まだまだ後見人は必要な年齢だ。弁護士は誰です?同級生だと言われてましたよね、弁護士になりたての彼。

その弁護士も親戚とグルだという事は?」


 少し考えて言った。

 「それはないだろ。康介とは仲良かったし、この子とも仲は良い。元々、悪ガキ3人組で幼稚園の頃から仲良かったからな。養子縁組したいか、それとも後見人になりたいか、どうなのか分からないな」

 「もう暫く調べておきます」

 「ああ頼む。サトル」

 「はい?」

 「お前の…」

 言えない、これだけは言うことは出来ない。

 なにしろ優介には何も言ってないからだ。

 「分かりました。あの男(ヒト)に聞いてみます。返事は期待しないでくださいね」

 何も言ってないけど、言いたい事が何なのか分かってくれる時がある。

 「悪いな。もしOKだったら、正式に弁護士経由するから」

 「はい」

 サトルは、優介の寝顔を覗いては「おやすみ」と額にキスをしていた。


 もし、あの男からNOと言われたら、何か考えておかないといけないな。


 

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