複相世代

僕らの染色体は偶数だった。

2nだった。2n=46だった。

つまりn=23種類の染色体が、2つ必要であるということ。XとYの性染色体がそれぞれ必要だということ。つまり、愛すべき個体が必要であるということ。

それは、僕らの永遠のdogmaだ。

Dogma(ドグマ)……概略すると、教義。doctrine。教え。

そしてそれは、僕らの血よりも、深く向こう、骨髄に、さらに根を張る管の奥へと、絶対的に受け継がれるdogma。

DNAそれ自体がポリメラーゼにより転写され、RNAになり、それが更にスプライシングされ、messangerとなり、翻訳され、僕らの体を造ってくれる。

Hox遺伝子群は、何億年も前から、僕たちの在り方を規程していた、僕らの体節を維持し、伝えてきた。

十四行詩ソネットが女性終止で終わることがあるように、母方のmessangerが、僕らの体節を抑制し、造り上げてきた。

そう。女性が僕たちをつくるんだ。

今も、僕を救い出そうと、何十億もの魂が息づき僕を脅かす勢いで、生命の産声をあげている。

だからこそ、『エミリ・ブロンテ』が幸せになってほしい、と願った。

そう、願った。

「いいかげん、食事を摂らないと死んじゃうよ」

「ぼくは食べない」

頑固な奴だな、と僕は思った。彼は、自らの為に、外の命を犠牲にしたくないのだ。

今朝、僕の飼っている雌鳥が、卵を一つ産んだ。

「ぼくは食べない」

雌鳥のdogmaを、彼は奪いたくないのだ、と思った。

「食べなよ」

「いやだ」

「食べなよ」



「いやだ!!!!!!!!!!!!!!!」

それっきり口を開かなかった。


『エミリ・ブロンテ』は純朴だった。

僕よりも、この世界よりも。

それでも、彼に幸せになって欲しかった。

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