暴力師匠は身内に甘い

 出口を見つけるのはそんなに大変ではなかった。ネコ耳魔女を締め上げて吐かせたのだが、一定の法則で角を曲がらないと出口に辿り着けないようだ。


「自由よー!」

「早くウチに帰してくれないか?」


 今のルルならば簡単にできるはず。ルルもこれ以上唯人と居たくはない。

 が。


「ルル。見つけた」

「お、お師匠様……っ!?」


 黒いショートヘアに唯人を越す長身。筋肉の付き方が明らかに常人と異なる。頭に乗っかる三角帽子から彼女も魔女なのだろう。と、いうか。


「姉貴……?」

「唯人。久し振り」


 一息に距離を詰めた女が唯人を抱き締める。引き剥がそうとするが、万力のようにがっちりホールドされて逃げられない。


「「そんなことだろうと思ってた」」


 こんなオチだろうとは思っていた。二人は揃って苦笑いする。


「唯人。大きくなった」

「姉貴、そろそろ離れてくれ」


 名残惜しそうに離れる姉に、唯人は照れくさそうに顔を背ける。


(はえー、あんなに厳しかったお師匠様がねぇ……)


 家族水入らずを邪魔するわけにはいかない。ルルは抜き足で去っていく。家出中の身なのだ。


「ルル。逃げるな」

「はいぃぃい!!!!」


 ドスの利いた声でルルを縫い付ける。よく教育が行き届いているようだ。


「良かったな、家に帰れそうで」

「唯人も心配。指名手配。聞いてたから」

「はっ!?」

「お似合いよぉ!!」


 爆笑するルルに唯人は突っ込む気力すら起きない。疑惑をかけられて、武力で抵抗し、なおかつ逃走したのだ。唯人は頭を抱える。


「俺の生活が……」

「唯人。一緒に住む」

「姉貴が関わるとロクなことがないんだよ!!」


 ルルも姉の弟子。厄介事の塊のような存在。



「てめぇらいい加減にしろぉ!!」



 ウィーク・エンド。完全に油断していた。唯人とルルが固まる。溢れる虹の奔流。完全に怒りで我を忘れている。


「僕の工房、大事な弟子たちをよくも滅茶苦茶に!!」


 二つ名持ちの本気。本物の死の予感が二人を固まらせる。


「ルル!!」

「もう魔力残ってない!!」


 死の光が二人に殺到する。







 剛力の魔女、アスカ=ヘラー。肉体の限界を追究する魔女。ルルの師匠で唯人の姉。今はウィーク・エンドの攻撃をジャブで弾いてアイアンクローで締め上げている。


「お師匠様……」「姉貴……」


 絶句というかドン引きしている二人。二つ名持ち最弱の魔女。噂は正しかった。


「ご、剛力……何で、ここに」


 弟子のように泣け叫ばないのは二つ名持ちの貫禄なのだろうか。涙目でプルプル震えて耐えている。


「ルル。弟子。唯人。大事な弟。お前コロス」

「許してつかぁさぁぁぁあいいい!!!!」


 今度こそウィーク・エンドが泣き叫ぶ。哀れ過ぎる。彼は何一つ悪くないのに。


「あ、あの……姉貴?」

「ば、ばかやめなさい」


 止めるルルを蹴り飛ばしながら唯人は姉に事情を説明する。徐々にアスカの目が据わってくる。逃げ出すルルの首根っこを掴む。


「謝る」


 そのままルルの頭を地面にめり込ませながら自身も土下座する。空気を読んで唯人も一緒に。


「「ごめんなさい」」


 姉弟が声を揃える。ルルは耳までめり込んでいる。


「い、いや……分かればいいんだ」


 抵抗しても勝ち目はない。怯えるようにウィーク・エンドが引き下がる。


「エンドしゃまぁ~~」


 そんな彼に駆け寄ってくる弟子。


「弟子。出来たんだ。お互い頑張ろう」

「あ、ああ」


 もう早く帰ってほしい。そしてもう二度と姿を見せないでほしい。願いを込めながら弟子の頭を撫でてやる。


「帰ろう」

「「嫌だ」」


 しかし逆らえない。


「帰ろう」


 二人の首根っこを掴んでアスカが何故か走り出す。移動中も鍛錬を忘れない。脳みそまで筋肉でできているような魔女だった。

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