第50話 疑惑が深まりますが俺はそういうんじゃない
「男色なのか…?」
「ちょっとアヤどういうことかなぁ」
「俺が知りたいわ」
「アヤくん…ちょっと性転換してきます」
車内。修羅場。以上。
というわけにもいかないので描写する。今朝登校した際と同じ席。なんで暁那が前に座らないのかっていう話だけどまぁそこに関しては別に今更どうも言わないけど。
男色の方には何の抵抗も偏見も無い――古来より男色は武士の嗜みとして普通だったらしい――俺としても事実と異なる内容を押し付けられるのはいただけない。
「別に俺はそういうんじゃないんだけど…」
「あぁ、悪い…秘密の話、だったか?」
「いや違うくて」
「むぅ、アヤくん。私以外の人と秘密ごとですか?」
左の暁那は何故か配慮するように声を窄め、人差し指を立てて口元に当てている。いやオレたちの秘密だな!みたいにされても困りますし違います。もっと誤解だってことを世に知らしめてくださいこまります。そして右のエレナは当てるな当てるなその魅惑の果実を…。童貞には刺激が厳しいです。少しでもその感触から逃れようと左へ身を寄せると他の男子より長く伸びた暁那のさらさらの髪の毛が俺の鼻先を擽る。なんだコイツ、男のくせに女子みたいな匂いがしやがる。いや別に悪い事じゃないけどなんだか落ち着かない。中性的な顔立ちと高い声だからうっかり意識してしまいそうになる。落ち着け俺、こいつは男だぞ。姉さんは「修羅場ねぇ」なんてあらあらなんて言ってるけど頼むから助けてくれ困るぞい。
「そういやエレナの方は勉強大丈夫なのか?今からガチでやれなんて言わないけどそろそろ準備しないと間に合わないんじゃないのか」
「いや、私はアヤくんに永久就職なんで」
…正気か。嬉しいけど先が思いやられる。こいつが嫁…なんて考えただけで胸が高鳴りそうなもんだが――というか実際に胸が高鳴ります。嬉しいです。とはいえ本人がそれならそれでいいですが。それならなおさら俺の方は努力して勉強しなきゃダメなわけで。そしてより良い学びは良い環境から。
「まぁいいや…エレナがこうなのは今に始まったことじゃないし。あ、そだ、暁那夜頼めるかな。エレナがこんな調子でさ。お前にしか頼めないんだ」
「お、おま、オレじゃなくてもいいってことなのか…!?」
なんでいちいちオーバーリアクションなんでしょうかね。そりゃ誰でもいい訳じゃないけども。多少はいろんな人から話を聞くとかしたほうがいいんじゃないかなって、お兄さんはそう思うわけですよ。お分かり?目をまんまるに見開いてびっくりしていらっしゃるけどお分かり?目でかいなお前。
そうして帰宅後夕食と入浴を済ませると時計は数字の8を指し示していた。ちょうど8回鳩が飛び出してぽっぽーぽっぽー鳴いてる。キリがいい時間だし何より思い立ったが吉日。暁那の為に割り当てられた部屋のドアをノックする。2階の奥の方の物置とかしていた埃被った部屋を使わせているのは実に申し訳ないのだが、これにも訳がある。俺としてもじゃあ俺がそこを使うと申し出たわけだが、従者としてそこは譲れないの1点張り。勿論それはそれで殊勝な心掛けであり、母がこうした素晴らしいアシスタントに出会うことができたことを喜ぶばかりだが、客を迎える側の人間としてはいそうですかと引き下がるわけにはいくまい。だってなんだか申し訳なくないですか?申し訳ないですよね?申し訳ないです(断言)
なので若干後ろめたい感情があるのでこの状況で勉強を教わりに行ってもいいのだろうかというところはある。今度あいつを連れだして美味しいものでも食べに行こう。男同士だし女子とはできないような経験もできるはずだ。明川や近衛なんかと4人でキャンプなんかしても楽しいかもしれない。いやまぁ性別なんて飾りみたいなもんだから気持ちの差レベルではあるんだけど、男子の中に女子が一人で混ざるのとかは大変そうだとは思います。
「おーい…暁那、きたぞ」
「ひゃ、ひゃひゃひゃいっ!?準備万端でありますっ!」
ほぉ、頼もしい。にしては精神状態が普通じゃなさそうではあるが、本当に大丈夫かな。もしかして俺という人間には接しにくいのかもしれない。いろんな人と仲良くできるこいつが俺とうまく馴染めない理由はよく分からないが、理由なしにそうなってしまうこともあるのかもしれない。本能的な拒否感があるのかもしれないから。
だからこそ迷ってしまう。もしかしたら今から自分がしようとしていることはとんでもなく迷惑なことではないのだろうか、と。結局自分の行動は私利私欲以外の何物でもない。もし迷惑なら困らせてしまうだけなのではないかと。仮にそうだとすれば母を助けてもらっているという恩をあだで返すことに他ならない。
「あーいや、その…迷惑だったりしないか?嫌なら嫌って言っていいんだぞ?嫌な思いをさせてまですることじゃないしそもそも俺がしたくない」
「……いえ、大丈夫です。ワタシも覚悟が決まりました。あなたなら大丈夫です。鍵なら空いてます。そのまま入ってきてください」
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