第49話 頭はいいけどポンコツかもね

「あの…先生、そこの文章…ええ、その⑥です。そこの文脈だとこういった訳し方の方が適切ではないでしょうか?もちろんその文章が間違いだと申し上げているわけでは無いのですが、このように意訳するのが適当では」

「…むむむ…言われればそんな気もするな。キミ、転校生かね」

「はい、本日よりここに転入してきました宮野と申します」

「二人目の宮野か。もう一人の方も優秀だがキミもなかなかやるねぇ。期待しているよ」

 一発目の授業。彼はいきなりその頭角を現した。先生は俺と並べているが、こいつの

 語学力は紛れもなく本物だ。発音やアクセント、表現に至るまで、本物の言葉に触れていなければ説明がつかない程の実力。日本語を非常にうまく使うので日本人かとばかり思っていたが…独特の訛り方だったり日本で当たり前のものに驚いたりしている様子を見る限り異国の人なのかもしれない。少なくとも俺より見ている世界が広い。随所にその雰囲気が感じられ、彼の秀でた才能に教室内の誰もが圧倒されている。

 中学生の英語にそこまで求めるのか…とも思うが、言われていればなるほど、筋が通っている。普通の日本人の生徒ならば多少の疑念はあっても飲み込んでそれが正しいのだろうと無理にでも納得するはずだ。勿論意識の高い人はその限りではないが。

 ともあれこのように授業中でも積極的に指摘していけるというだけでもすごいのに、その卓越した頭脳で教師すらも納得させてしまうあたり実に恐ろしい。

 国民性としての違いもあるのかもしれない。

 つーか人見知り言うてたくせに既にちゃくちゃくと人間関係を築きつつあるんじゃないですかね。なんでしょうね、コミュ力高いじゃないですかアンタ。

 心配して損した、ほっといても多少は大丈夫でしょうかね。




 そんなこんなで授業は終わり。後は放課なのだが、そろそろ勉強も始めないとまずいのか…?基本的な事は常に復習予習してるから模試なんかでもそこそこ点数は取れているのだが、勉強にし過ぎということはあるまい。学べることに限りなしだ。

 それに勉強は儲かるからな。将来への積立金と考えればバイトなんかよりも何倍も稼げる。すぐに手もとにお金が来るわけじゃないから実感しにくいけど、どんなバイトよりも高収入なんだよ。ほんとはね。高校どこに行くかで正直大きく差が出るってのは割とガチな話。例えば勉強ができるのに低い偏差値の高校に行ったとする。そうすると伸びしろってのは大きく縮むことになる。周りから悪影響を受ける可能性も高い。勉強をする人を馬鹿にするような奴だって偏差値の低い高校には多い。なぜなら勉強をすることの多大なメリットを理解していないからだ。勿論全員じゃない。生きてるうちにその重要さを理解し、尊重し、良い影響を受けようとする人だってちゃんといる。だが、周りから悪影響を受けやすい環境に身を置くというのはそれだけでデメリットである。

 自称進学校とか言われてる高校に行く方が遥かにマシだ。あそこは強制的に押し付けて学習させてる印象が少なからずあるが、やらないよりずっといい。

 自称進学校に行くやつは大体できるけどやってない、ってやつが多いのでむしろそれが一番適合してる。勉強ができる奴はもっと上のところいってるからな。

 …というわけで勉強をしたいのだが。数学や理科といった理系科目が得意な俺としては、一番嫌なのが英語である。あと国語。社会は大丈夫。

 いつもは近衛に聞いてるんだが、最近はあいつは自分の勉強で忙しいらしい。偏差値70近いところに行くんだとか。今までお世話になったのに、ここで足を引っ張るのはまずいとおもって自習に切り替えてたんだが…暁那がもしかしなくても勉強できるので今晩あたり聞いてみるか。

「なぁ暁那、ちょっといいか、今晩」

「こ、こここ今晩?何を言ってるんだ君は…!こんな、人混みの中で…!」

 …?確かに昇降口は一斉に下校する生徒たちで賑わってはいるけれども、そんなに変な話をしただろうか。ただ今日の夜勉強を教えてほしいという話を持ち掛けようとしただけなのだが。もしかしたら人見知りって俺限定とかそういう?

「あ、もしかして今日は都合が悪かったりする?別に夜遅く――そう、寝る前とかでいいんだ。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから!」

「ちょっとだけ!?」

「そう、少しだけでいいよ。後は俺が自分でするし」

「自分で…する…?オレの前で?」

「まぁ確かに監視があると逆に集中出来たりするからな。できればお願いしたかったり。ほら、見られてるとやらなきゃって感じするだろ?」

 何に対して一々驚いているのだろうこの子は。海外で過ごしている母の秘書と言う話だが――実質アシスタントみたいなとこじゃないですかね?――上手く俺の日本語が伝わっていないだろうか。だがあそこまでしっかりした日本語を話せてこの程度のやり取りができないというのは少し考えにくい。そう考えれば謎は深まるばかりで結局振りだしへ。どうしたものかね。

 何故か顔が真っ赤な暁那はわたわたと口をまごつかせながら目を白黒させ…意を決したように一つ頷く。

「そ、そそそこまで言うなら仕方ない…が!一つ聞いていいか!」

「何がどう仕方ないのかはよくわからないがいいぞ。聞かせてくれ」


 視線を逸らし、やや上目遣いで俺の方を見上げて声のボリュームを抑えつつ――

「――男色か?それとも見抜いたうえで?」

「は?」

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