第51話 暗闇に乗じて。なお誤解です。
部屋に突入した瞬間、足が払われた。受け身を取る暇も無く、床に叩きつけられる。肺から空気が絞り出され、喘ぐように呼吸を求める感覚は父との稽古以来だな、なんて考えているあたりまだ俺も余裕があるのだろう。不意打ちとは言え、得意としている肉弾戦で不覚を取ったことで逆に冷静になれているのかもしれない。だが身体への攻撃はそこで終わらなかった。
身体が浮くような心地がし――否、実際に運ばれてベッドに放り込まれる。状況がうまくつかめていないのは部屋が真っ暗である事と不意打ちで気が動転しているからなのだが…。教材を床にぶちまけたまま、俺がベッドに投げ飛ばされている状況を考えると何者かがこの家に侵入し、潜んでいて俺を攻撃したと考えるのが妥当だろう。
それは即ちこうしている場合ではないということを意味している。今すぐにでも立ち上がって対処しなければ。
「…ッ、くそっ、誰だッ!」
「動か、ないでくれ…ワタシもこういうのははじめてで…」
聞こえてきた声に思わず硬直した。驚きの余り目を見開いた俺の眼前には一糸纏わぬ少女の姿があった。だがその顔は見知っている。眉目秀麗容姿端麗。完璧の代名詞こと宮野暁那。暗闇でもここまで近ければ分かる。
しかしおかしな点がいくつか。部屋が暗いだとか、どうして服を着ていないのかというのは当然だが、それらをぶっちぎる違和感がそこにはあった。あるべきものがなくてあるべきでないものがある。…つまりはそういうことなのだろう。
さらけ出された胸元には双丘があり、その頂点には紅。女性らしく丸みを帯びた体系が突如現れたことによりすさまじく動揺しているのが自分でも分かる。男のはずではなかったのか、仮に女性だとしてどうして今まで隠していたのか、どうしてこんなことになっているのか。様々な疑問と困惑が脳内を駆け巡る。そんな俺を現実は置き去りにする。
「ま、待ってくれ、どうしてこんなことに」
俺の静止の声に何故か疑問符を浮かべつつ、疑うような目つきをする。
「どうしたもこうしたもない、っ…お前がこうしろと…」
「待ってくれ!?いつ俺がそんなことを」
心外だ。確かにこいつは男の俺から見ても魅力的だしそもそもこいつが女性ならなおのこと魅力的だ。だが別に俺は男色ではないし、仮に女性だと分かっていたとしてもこんなことをいきなりさせるような性根の腐った人間ではない。それでも暁那の言葉は止まらない。
「この期に及んで逃げるのか…?女にここまでさせておいて、っ、やっぱナシ、だと?男が廃るとは思わないのか」
「待ってくれ、この状況は悲しい誤解だ。何かの手違いでこうなってしまったんだ。不快にさせてしまったのなら申し訳ないし、気分を害したのなら謝ろう。だがこの状況は俺自身も想像しえなかった事態であり、そもそも俺の方が混乱してさえいる。とりあえず…その、服を着て?」
俺の落ち着いた口調にどうやら本当に誤解だと気が付いたらしい。俄に暗闇に目が慣れ始めた今だからこそわかるが、彼女は耳まで真っ赤だ。それはそうだろう。そこまで親しくもない男の前に裸体を晒していてしかも何かの手違いだと分かった状況。赤面しなかったらもはや痴女まである。
「いいや…いや、ワタシはここまできて引き下がれないっ、頼む、抱いてくれ!」
「いや本当に待って!?俺にはそんな甲斐性ないんだけど――「知るか!ワタシが養う!頼むからこの状況に収集を付けてくれ!一回抱いてくれたら!一晩でいい!頼む!このまま引き下がったらワタシほんとにお嫁に行けない!」
「落ち着いてマジで!落ち着いたら抱くから!(?)変なスイッチは切ってくれ…」
「知るか…っ、抱け、抱けよぉ…は、ははっ、わかってる、ワタシに魅力が無いなんてことは…」
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