第48話 質問タイムとCP

 まぁみんなの反応は至極当然ともいうべきか、当たり前の反応。転校生が立て続けに同じクラスに転入してくるだけでもどういうことなのか気になるというのに、その二人とも一人のクラスメイトと親しい仲らしい。そうきたら質問が矢継ぎ早に飛び始めることはもはや想像に難くない。

 というわけで、夏を感じる蝉の声が俄に鳴り響き始めた教室の片隅で、再び俺はクラス中の視線をくぎ付けにしていた。その視線の中には羨望、嫉妬、興味、興奮といった様々な要素が混ぜ込まれていたが、そのどれにも明らかな敵意が含まれていなかったことに安堵する。俺個人の意見としては視線という物は本当に人を殺せると思っていて、結局のところ、複数の殺意の籠った眼差しに中てられれば人間の精神など容易く崩れ去ることだろう。だからこそ人一倍視線には敏感な俺は、その事実に深く安心したのだ。

「おい、質問していいのは転校生の方の宮野に対してだぞ。理人の方は休み時間とかに各自で行ってくれ。なお、私の方では宮野理人の保護は行っておりませんのであしからず。自分の身は自分で守れよ少年。自己防衛大切」

「まさかエレナに対して海に沈めてくれるだのなんだの言ってたの引きずってるんですか先生…勘弁してくださいよ命がけなんですってこちらは」

「知らん。私の印象を著しく貶めた罪は非常に重い。覚悟したまえ」

「やーいやーい、宮野ばーかばーか」

 一人チンパンジーみたいなやつが混ざっていたがそれはそれとして。質問攻めは必須だろうが、まぁそれは俺が耐えればいいし別に耐えられないことではない。少し大変というだけだ。

 だが暁那のほうはどうだ。どうせ勉強もそつなくこなすだろうあいつは勉強面じゃ優秀な成績を収めるかもしれないが…人間関係の構築に関してはからっきしに違いない。俺に手伝えることがあればいいんだが。




 HRの間は若干俺を巻き込みつつ質問が行われた。『宮野理人くんとはどういう関係ですか?』という質問に『…秘密です』と答えた時は冷や汗が伝いましたがね。別に同性愛なんかに抵抗があるわけでは無いが、俺個人としてはそういった趣味は無い。

 恋愛に性別は関係ないと思うので恐らくエレナが男の子でも俺は好きになっていたとは思うが。結局好きになった人がたまたま男だったりとか女だったりとかそう言うレベルの話でしかないんだろう。言い争うことでもないんだよ本当は。

 ともあれ暁那の方もこのような考え方とは限らないので複雑ではあるのだが。

 何故かキャーキャー言ってる女子もいてイケメンって罪なんだなと痛感した。やはりイケメンは誰と絡んでも美味しいらしい。男である俺から見ても控えめに言ってイケメンだという評価に落ち着く。

 先ほども述べたが、思春期の女子から見ればこの上ない程魅力的な美少年と言っても決して過言ではない。そして見た目だけではなく性格まで伴っているのだから正に崩す隙が見当たらないのだ。

 大盛況のうちに終了した質問タイムであったが、逃げおおせることができないのが俺の定め。

「どうして二人とも苗字が一緒なの?もしかして親戚とか?」

「いや別に…親が連れてきた。詳しいことは俺も知らない」

「え…何?私もしかしたらやばいこと聞いちゃった?」

 俄に慌てだす目の前の少女が不憫になったのか、暁那が助け舟を出す。

「深い理由は本当にないんですよ、ただ宮野くんのお母さんと縁がありまして。他にもいろいろ事情があって引っ越すことになって。それで彼の家に居候させていただいているという状況で…」

 そんな風に事の顛末を話している普通の姿でさえ、ファインダー越しに覗けばそれはもうシャッターチャンスの宝庫に違いない。ただでさえイケメンな上に美声と来たものだ。その中性的な印象をさらに強める高めの澄んだ声音に男子も心を奪われつつあるぞ…。これがイケメンがイケメンたる所以…ッ!

 俺が同じことをしてもここまでの注目は集められないだろうさ。勿論明川でも。

 美少年とはそれだけで最高スペック。こんなモンスターが隣にいるのは正直驚きだがな。

「アヤくんもイケメンですからね!他人事みたいにイケメンすごいなぁ、なんて感動してる場合じゃないですよ!」

「どうしてこのタイミングでフォローされたのかはわからないが俺はイケメンではない」

「いいえ違います」

「違いません」

「仲がいいんですね、二人とも。オレにはそういった幼馴染や兄弟のようなものはいなかったものなので羨ましいです」

 俺たち二人の仲に暁那も加わったのを皮切りに、ほかの生徒からもヤジが飛び始める。

「リア充め―!」「うらやましいぞこのー!」「結婚して!」「私の推しCPはアヤ×アキなんですけどー!」















 不穏な言葉が聞こえたが、まぁそれはそれ。

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