第39話 母、やばい
「…う、よし。もういい、おにいちゃたち、やさしい」
あれから十数分後、泣き疲れて眠ることこそしなかったものの、体力を消費したという印象の少女がいた。目は真っ赤に泣き腫らしているが、悩みや困惑という物を断ち切ったかのような清々しい表情をしているように見える。
時刻は七時。俺たちが抱きしめている間に叔母さんが料理を用意してくれていた。なんというか、近所のちびっこに好かれそうなおばちゃんという感じ。
「はいよー、冷めないうちに食べちまいな。灯ちゃんもつかれたろ。飯食ってさっさと元気だしな、とりあえず食べとけば大抵のことは何とかなるもんさ」
そう言いながらも準備する手は休めない。あっという間に人数分の箸と料理が並んだ。大樹の幹を横にスライスしたような木目が印象的な大きなテーブルは俺たち全員が座っても十分なほどの余裕があった。
味噌汁の香りが胃袋を刺激する。やはり胃袋は食べ物が大好きらしい。
「お姉ちゃんがいちばんのりー!いただきまーす!!!!」
「子供か」
「なにおぅ!お腹がすいたらご飯を食べたくなるのは仕方のないことであってですねぇ」
ひょっとしたらこの場で一番元気なのは姉さんかもしれない。口をとがらせながら俺に文句を言う。けれどご飯を食べる手は止めない。食いしん坊か。
「アンタはもう少し落ち着いて食べな…。行儀悪いっていっつもお父さんたちに怒られてたじゃないかい」
「いいんですぅ。だいたいおとーさんは教育方針がころころかわるからどうしたらいいのかわかんないんですよーだ!」
「それはホントに分かる。昨日は早く寝ろ!っていったくせに翌日には寝すぎだって怒られちゃう」
うちの父は良い意味でも悪い意味でも受けた影響を人に伝えようとする。だから自分がよいと思ったことは子供たちに何でも伝える。新たに上書きされれば真逆の事でも子供たちに伝える。いい人で面白い人で真剣な人だけどその点を合わせていくのは困難だ。
「そーいえば、われ、どこでくらせばいい?」
おにぎりをくちいっぱいに放り込んでしばらくもごもごさせながら俺たちの話を聞いていた灯がごくんと喉を鳴らして質問。
確かに家族とは言ったものの具体的な話はしていなかった。折角なのでこの際にある程度の話はしておこうと思う。
「昨日のうちに母さんにSMS飛ばしたんだけど瞬時に返ってきて、『おk~!なになに?ロリっ子?やぁ~んもうアヤアヤったらいい趣味ぃ!』って言われた」
「大丈夫なんですか、お義母さん。いつも通りな気がしないでもないですが」
姉さんと共通点が微妙にある気がするのがうちの母親だ。彼女を一言で表すとした変態。それも真正の。何故か性教育とか言ってR18のゲームや書物を買い与えまくる模範的な教育者の反面教師。なんでもイケる変態で、ロリから熟女まで、獣からスライムまですべてを網羅する変態だ。うちの家系はどうしてこうも残念美人ぞろいなのだろうか。いやまぁ姉さんも母さんもやべーだけでいい人ではあるんだけども。
「あ!あと、『ママ明日の夜にはおうちつくからよろ~!かわいいこどもたちをぺろぺろさせてね!』って言われた」
「エ…?われ、だいじょうぶ?」
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