第40話 姉も姉
「お世話になりました!また遊びに来ます!」
「あいよ!また遊びに来な。今度はうまい酒でも持ってきてもらおうかねぇ」
玄関先でお礼を言うと豪快に笑いながら冗談を口にする叔母さん。この人の人柄という物には今回大きく助けられた。彼女のもとでなければ俺たちはうまくやれていないだろうし、最悪の場合なんらかのわだかまりが生まれてしまっていた可能性も否定できない。
例え俺の父さんでも、母さんでも、姉さんでもうまくやれなかっただろう。少なくとも今より良い結果には結びついていないと思う。これは偏に彼女の豪胆な性格と細かいことを抜きにできる寛容さ、そして必要のないことには目を瞑るやさしさがあってこそだ。この件は感謝してもしきれない。
「おばさぁん…お酒、どんなのがいいです?わたしがんばっちゃいますぅ!」
姉さんは張り切っている。
「冗談だよ冗談…まったくアンタは昔っからいい子なんだけど冗談が通じないねぇ…。それもまぁアンタの美点っちゃ美点なんだけどさ。ひとつ土産にしてほしいもんがあるとすれば、あの子らの成長した姿が見たいってくらいさね」
ふっ、と目を細めて愛おしそうに姉さんを見つめる叔母さん。姉さんもこの人の影響を受けて育ったのだろうか。柔らかな眼差しに宿る芯の強さはどこか姉にも受け継がれているような気がする。いい人に巡り合えた幸運に密かに感謝しながら俺達は叔母さんの家を後にした。
「みんなぁ、忘れ物はぁ?」
「無いよ。姉さんこそ大丈夫?」
「大丈夫です、お姉さまは大丈夫ですか?」
「はい、アタシは問題ないです。そちらも大丈夫ですか?」
「われ、おーるおっけー。おねえちゃ、おっけー?」
「なんでお姉ちゃんにばっかりきくの…って車のカギ忘れたぁ!」
それ見たことか。我が姉ながらおっちょこちょいだなぁ。できるだけ俺も家事を手伝ってあげないと。大変な思いを普段させちゃってるせいで疲れてるのかもしれないしな。少しはその苦労を背負ってもばちは当たらんだろ。灯の分も家事が増えるし洗いものくらいは気づいたらやっておかないと。
天候は雲量ゼロの素晴らしい快晴。夏休みを目前に控えた夏らしい天気だ。そよ風に揺れる木々の葉が目に優しい。日本の夏と言えばこの景色より右に出る者はいない。のどかな素敵な空間こそ和の魅力だ。
灯が増え、少し手狭になった車内には疲れのムードが漂っていた。灯は疲れや安心感からか恵とエレナに挟まれるようにして眠ってしまっている。灯を挟んでいる二人もうとうととしていてお疲れのご様子。姉さんはなんだかほっこりして回復しているようにすらみえる。この差はなんなのだろうか。
窓の外を高速で過ぎ去る景色を眺めている俺は現在助手席。ナビ兼姉さんのお話相手役兼CD係だ。現在は緩やかなリズムの…エロゲソングが流れている。
「はぇ~アヤぁ、なんでエロゲに名曲が多いんだろうねぇ…」
ほくほくした顔つきでハンドルを握る姉さんは嬉しそうに弟に語り掛ける。その弟は今年で十五になったばっかりだがどうなんでしょうね。それ。
「中学生の弟にする話じゃないと思うんだけどね…まぁ同感。個人的に好きな曲!って適当に動画再生してて詳細見たらエロゲだったっていうのは枚挙に暇が無いよ」
「まぁまぁ固いことは抜きにしようぜぇアヤぁ。おねえちゃん知っての通り絵が得意なんだけどさぁ」
「なんだよ急に。確かに姉さん絵上手いけど、描く対象によって幼稚園児レベルだったりプロの漫画家みたいだったりするから一概にうまいと言っていいのか疑問が残る」
そう、極端なのだ。パンダやゾウ、ウサギなんかの動物を描いてほしいとお願いすると分かるのだが、融解したアオミドロみたいな生物を描き出すのだ。顔が何かもわからないし、そもそもそれが生物であったかすら理解できないことの方が多い。幼稚園児が目を瞑って描いた動物の方がよっぽど上手だろう。
そのくせエロ漫画を描く才能は群を抜いている。対象が人型になればなるほど上手くなるのだが、エロ漫画はぶっちぎりで上手い。乱れた表情、蕩けた目元、滴る唾液なんかはそんじょそこらのプロじゃもしかしたら太刀打ちできないレベルかもしれないとは母さんから聞いたことはある。恋愛ものの漫画は見せてもらったが、そういったものは見せてもらえていない、一人の男子中学生として興味がそそられるのは否定できないところ。
「おねえちゃんはぁ、お父さんからえっちぃの禁止されてた時は、自給自足してました!自分でえっちぃの描いてはぁはぁしてた」
「変態じゃねえか」
「いやぁお母さんの英才教育の賜物だよぉ、おっほっほ」
知りたくなかった姉の若々しき時代。
「そんなに自信があるなら見て見たかったなぁ、そういうの。姉さんの作品ってすごいのか?」
おれがそう質問すると姉さんはきょとんとした顔つきで俺を横目で見て、
「…?アヤが気に入ってるえっちぃ漫画とかは基本的に全部おねぇちゃんの自費出版だよ?」
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