第31話 鬼の子

「…鬼、ねぇ。アンタこれ、自分が何してきたか分かってんのかい」

 扉を開けて帰ってきた俺たちを目にした叔母さんは確かな重みをもって言葉を紡いだ。目には研ぎ澄まされた鋼のような鋭さが宿っており、プレッシャーを静かに放っているように感じられた。

「ええ。分かっています。自分が起こした行動に対して果たすべき責任、この子の未来を背負う覚悟は、しっかりと」

 言葉を選びながら、答えていく。満足させるほどの覚悟があると伝えなければ。

「…そうかい。んじゃまぁ、いいんじゃないかい?」

「…すいませ――え?」

 てっきり怒鳴りちらされるとばかり思いこんでいたため、あっけにとられてしまった。目の前の恰幅のいい叔母さんは呆れ半分、慈悲半分の表情で大仰に肩を竦めた。

 傍らの鬼の子の身なりはお世辞にもきれいだとは言えず、礼儀正しいともいえなかったのだが、運のいいことに存在を認めてくれたらしい。

 こちらに背を向けたまま、「上がりな」と手招きする叔母さんに促され俺たち四人は靴を脱いで――鬼の子は裸足だったが――居間や寝室ではなく、風呂場に通された。

 ちなみに鬼の子は新たに目にする道具の数々に目を輝かせていた。

 フローリングの廊下を歩いて突き当りを右に曲がる。心なしかまだほんのりと温かさの残っているような気さえする。

 脱衣所につくと叔母さんは、

「アンタは残ってこの子のお風呂を手伝ってやんな。あんまり言いたくは無いんだけど、すごい臭いがしてる。大方風呂を知らないか風呂に満足に入れていないかのどちらかだとは思うからあんたがどうにかしてやんなさい。できるね?」

 え?俺?

「ちょっ、ちょっとまってください、アヤくんは男の子ですよ?他の人がいないのであればまだしも、私たちがいるんですから女の子のお風呂の手伝いは私たちがします!」

 慌てて声をあげるエレナ。俺も同意見だ。別に誰がやったってかまわないとは思うが、女の子なら俺みたいな男に素肌を見られるのはあまり好まないだろう。

 正直年下の女の子だから大丈夫、とは言えない。俺自身も。

 年下と言っても中一くらいだ。十分異性として意識できる年齢である。俺も男だ、そういった場面ではないことは分かっているにしても生理的現象はどうしようもない。

 だから俺としてもそちらのほうが助かるのだが。

「そうですよ。宮野クンだって困るはずです。私たちのほうが女の子の体の事は…」

 同じく異論を呈する佐原。個人的には筋がしっかり通った意見だと思ったのだが…。

「んんん…女の子二人には料理とか布団の用意とかしてもらおうっておもってたんだけどねぇ」

 困ったように頭をかく叔母さん。叔母さんとしてもこいつらの言っていることは理解できるらしいが、こちらにこちらの事情があるといったような表情だ。

 無理を言っているのはこちら側なのであまり強気にも出れないし…どうしたものか。

「我…このおにぃちゃがいい。ほかのおねぇちゃもいい人、そうだけど。このおにいちゃ、すき」














 また火種が一つ。

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