第2話 幼馴染が爆弾発言をすることの危険性
「…っつーわけで今日の授業は終わり。今日は給食も出ねえからさっさ家帰って飯食えよ。今日の授業で質問があるなら昼過ぎまでなら聞いてやる。それ以降は明日にしろ。んじゃ日直、号令」
先生が黒板に書かれた文字や図形を消しながら合図を送る。
時計は現在十一時四十分。つまるところそれは早くも俺たちが解放される時間が来たということ。
ある程度しっかりした号令に合わせて俺達もしっかりと礼をする。いつもならば憂鬱だが、今日は別だ。体力に余裕がある時くらい人に感謝しておいてもバチは当たるまい。
「エレナちゃん!私たちと一緒に帰ろ!」「いや俺たちと」「ふざけないでアタシ
とよ!」
終礼が終わった途端、教室中がざわめきだした。一心不乱にエレナを誘っているように見えるが…まぁなんというか。当然というか予想できたというか。
とはいえ正直に言って他の人達と行動されると都合が悪い。別に嫉妬とかそういうのではなく、準備とかそういうのがいろいろあるのだ。
…ちょっと嫉妬心がないとは言い切れないが。
とまれ、日常品などを買いにいかなければなるまい。食器類は一人増えたくらいで足りなくなることなどないのだが、歯ブラシや下着といったどうしても用意しなければならないものがある。
一応着替え等はあるにはあるものの、色々と女性的な意味でも成長したエレナの体にはすこしばかり小さすぎるだろう。
幸い今日は午前授業で午後は時間が空いているということもあり、買い物に行く時間も確保できている。正直途中で別行動をとると何時合流できるかもわからないので一緒に帰りたいのだが…。
『今日ちょっと買い物に行くから一緒に来てくれないか』
こういう時はとりあえずメールを送っておくのが基本。結構メールには敏感なやつなので、すぐに反応してくれるはず。
ちなみにうちの学校は結構都市部から離れたところにある。なので、申請さえ通せば、放課後に学校で携帯を弄っていてもあまり文句は言われない。
親が迎えに来る家庭も少なくないので、連絡ツールとして学校側が許可を出しているのだ。流石に堂々とゲームなんてやってれば怒られるけれども。
「なぁ宮野ぉ。どうしたらあんな美少女の幼馴染ができんの?」
「いやそんなこと聞かれても」
背後からすり寄ってくる明川。くねくねとしていて非常に気持ちが悪い。
田舎の畑に出てくるくねくねもこんなんなのかな。いやだな。殺しておくか。
「絶対あの子いい子でしょ…わかるもんオーラで」
「まぁ立ち振る舞いが余裕あるもんなぁエレナ。昔はもっと活発だったけど
こっちはこっちでいいと思ってる」
小学校の頃は一緒に川に遊びに行ったりしたこともあり、アウトドアにも対応できるのだ彼女は。料理は得意なものの、釣りは下手だった。今はどうなんだろ。
麦わら帽子と白いワンピースがとても似合うあの姿が思い起こされる。初めて女性という物を意識したのはあの時だったと思う。
「…宮野。なんか急に向こうがざわついてね?」
突如話題を転換した明川に促されるまま、前方の集団を見やると、何やら本当にざわめいていた。先ほどまで我先にと声をかけていた連中の様子がおかしい。
「す、すみませんっ!お誘いしていただけるのは嬉しいのですが…今日はアヤくんとデートの約束がありますのでっ!」
彼女が放った言葉に教室が凍り付いた。
恐らくざわめきの原因はこれだ。
にぎやかだった集団の声は冷徹な殺意というか憎悪というか。そういったものに変換され、矛先を俺へと向けている。
まさに原爆級の問題発言である。そのまま周囲を置き去りにして俺のもとへやってきて…。
「えっと…帰りましょうか、アヤくん。お姉さんやご両親にもご挨拶しなければなりませんし…。出かけるのも、早い方がいいですよね?」
「…おう。あと、別にデートってんじゃ…」
まず間違いなく言っておかなければならないのが、これでなんの悪意も持っていないこと。そして、何も隠す気が無いということだった。
確かにあの文面ではデートの約束ととられてもおかしくないだろう。というか間違いなくとる。
明らかにあれは俺の伝え方がまずかった。
女子と男子が放課後に一緒に出掛けるなんてデート以外のなんなのか。
これで俺が憤るのは理不尽だと言わざるを得ない。圧倒的にあの文章では情報量が少なすぎる。俺ももうちょっと本読むか。理系科目が好きだからって本から逃げすぎた。
「分かってますってアヤくんっ!流石に冗談ですよ。私の下着とか服とかそういうのですよね?分かってますからそんなに慌てないでください…ちょっと私だって恥ずかしんですから」
甘かった。今度は水素爆弾が来た。原子爆弾なんてまだ可愛かったんだ。
「可愛いの選んでくださいね?」
「まってなんで俺が一緒に選ぶ前提」
「だってアヤくんくらいにしか見せないじゃないですか」
「それ以上言うな嘘は言ってないだけにやめろ言葉に重みがある」
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