11.12 エンリケ=グラス

ホワイトハウス。

米国第48代大統領エンリケ=グラスは、記者たちの質問に答えていた。

彼の脳内は「どうすればこの事態を引き延ばせるか」という考えで埋まっていた。


何とかして俺の任期を終わらせないと。

「戦争」を収束させる?冗談じゃない。

どうせ、収束させた途端にマスコミが騒ぎ出す。『いったい、この事件はだれの責任なんだろうか!』という感じで。

そしてそういう時、決まってたたかれるのが大統領だ。

マスコミはきっとこう言う。

『大統領は国民の安全を守る義務がある!それは予測段階においても同じだ!ならば、この危機を予測できなかった大統領は責任を取って辞任しろ!』ってな。

このくそマスコミどもが!

ただ辞任させたいだけで、本当に辞任した後のことは何にも考えていないくせに!


「はい、それについてはですね、当局の飛行部隊に…」

彼は内心で質問してくる記者たちのことを罵りながら、笑顔で彼らの質問に答えていった。









記者たちが去った後、エンリケはホワイトハウス内の休憩室でコーヒーを飲みながら、これからのことについて、一人考え事をしていた。


全く、ファーガスはうまく逃げたもんだ。

彼が突然辞任を発表して、次の年にこの危機が起こったんだもんな。

いくら何でもタイミングが良すぎる。

彼はきっと、衛星写真かなんかで「異変」の前兆を見つけたんだ。

そして、自分の任期中に問題が起こるのを恐れ、何も犯罪を犯していないのに、電撃辞任した。

こうなるんだったら、48代大統領なんかに立候補するんじゃなかった。

かといって今やめたらマスコミにたたかれるだろうし、やめなくてもいずれたたかれるだろう。

まさに八方塞がりだ。


エンリケはコーヒーを飲み干すと、クズカゴに向かって空き缶を放り投げた。

空き缶はくるくると回りながら、クズカゴの10cmくらい横を通りすぎ、少しだけ残っていたその中身を床にまき散らした。

「くそ!」

エンリケは毒づくと、クズカゴの横に転がった空き缶をひろい、手でクズカゴの中に入れた。

そして、午後の予定を確認するために手帳を開く。

「さてと、午後からの予定は………13時から議員たちと会議、16時から軍の幹部と会議ね。」

彼は手帳を閉じると、会議室へと向かった。









議員たちとの会議は、驚くほどあっさりと終わったが、軍の幹部との会議は、予想通りに長引いた。

「大統領、やはり『新型』に対応するためには、複数の戦車による同時攻撃しかありません!大火力によって構成物のほとんどを焼き払えば、いくら『巨人ジャイアント』であろうと立ち上がれません!」

「しかし、M1エイブラムス単体での『巨人ジャイアント』への攻撃実験では、全くと言っていいほど効果が見られませんでした。4,5台使っても、殺すまでには至らないのでは?」

「そうか、ならばほかの手段を考えるしかないか…。大統領、何か案はありませんか?」

「例えばBGM-71 TOWなどの、『焼き払う』専用の兵器で焼き尽くしたらいいんじゃないか?」

「しかし大統領、1発だけですと、体の一部を投げつけられ、不発にされる可能性があります。『巨人』には知性がありますので、2発でも不安です。『巨人』一体につき3~4発は必要になってしまうかと…。」


「膿人間」が5体ほど集まり、体を結合させて生み出す『巨人ジャイアント』。

その体長は、通常の「膿人間」の3倍ほどに達する。

ジョン=カースターたちの掘った塹壕を超えたのも『巨人』であった。

また、中で「膿人間」たちの脳が集まり、巨大な脳となるため、『巨人』はある程度の知性を持っている。

具体的に言うと、飛んでくる手りゅう弾等に自分の体の一部を投げつけ、爆発を抑え込む程度の知性である。

また、通常の「膿人間」よりも体の粘性が強く、銃弾などの衝撃を受け流すときに体が崩れない。よって、ひたすら打ち続けて消滅させる作戦は使えない。


「奴が現れてから、もう2部隊もが壊滅しています。今、使用許可の出ている兵器では、威力が足りません。もう少し強力な兵器の使用許可を。」

「どのレベルまでだ。」

「…4までお願いします。」

「わかった。出しておく。」

「ありがとうございます。」

2041年、時のアメリカ大統領ファーガス=ジェファーソンは、「平和的な解決」を訴え、軍への武器の使用制限を強化した。

武器はその威力などによってレベル0からレベル5までに分けられ、戦況に応じて大統領が許可を出す、というものだ。(ただしレベル0の武器は、大統領が使用許可を出さないでも使える、『基本装備』である)

それまでも、米軍は「無制限に武器の使用ができる」わけではなかったが、より一層制限がかかったのだ。

レベル4は、MOABなどの、「核兵器に次いで威力のある兵器」がカテゴライズされている。

「「「「では、失礼いたします。」」」」

そう言って、幹部たちは会議室から出て行った。

「ああ、頼んだぞ。」

エンリケは彼らに返事をすると、椅子に深く腰かけた。

すぐに秘書がやってきて、明日の予定について説明し始める。

「明日の予定は、午前8時から国務長官と会議、10時から…」

「すまない、悪いが一人にしてくれないか?考え事をしたいんだ。」

「わかりました。」

秘書はそう言うと、会議室から出て行った。


軍が「レベル4」を要求するのは、相当戦況が悪い時だ。

具体的には、全部の中隊の内、半数の中隊が壊滅した、ってところか。

『巨人』とやらはそんなに強いのか。今まで確認された「奴ら」の中では、最強のタイプだと聞くが…。

「………『準最強兵器レベル4兵器』と『最強死人ジャイアント』の対決になるな。これは見ものだぞ…。」

一人、会議室の椅子に腰かけたエンリケは、そっとつぶやくのだった。

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