第17話 重なる異常
「はァ.....。朝か...」
夢ではない。そう分かっていたはずでも、やはり改めて思い知らされるとなかなか心にくるものがある。
さて、これからどうしますか。
「アレクセイー、起きなさーい」
階下から母親(仮)の声。
寝起きは動くのが億劫だ。いつまでも寝台で横になっていたいのだが、本来見ず知らずである女性から言われたのでは反抗する気にもなれない。素直に起きるしかないか。
おぼつかない足取りで階段を降り、1階に向かう。父親(仮)も既にいる。
「おはようございます」
「...? 早く食べてしまいなさい」
「あ、ああ」
いけない。寝ぼけて気を抜いて、敬語を使ってしまった。
朝食は昨昼と同じ黒パンと、目玉焼き、サラダ。絵に描いたような朝食だ。
その朝食中のこと。
「そういえば例の竜の討伐隊が壊滅状態で帰還したらしいな」
「あらそうなの...。大変ね」
「.....」
「今日までに、方々から我こそは姫を救える、という猛者を集めているらしいぞ」
「そう...。政治にも影響出てるみたいだし、早くなんとかして欲しいわ」
(まずいな。もう姫を助けさせる有志を集め始めたか。いや、ここで『竜と姫』の主人公に倣って竜討伐に名乗りを挙げなくても良くないか? よく考えれば、俺は姫さんの悲愴な運命を阻止すればいいんだし、それを遂行する上での過程は指示されていない。となれば、俺はこの村で、姫さんを救う方法を考えればいいではないか)
「おはようございまーす。アレクセイ、そろそろ行くぞ」
ジャックがやって来た。
「お、おう分かった」
今日も教会に行くのか? 急がないと...。
俺は朝食の残りを胃に流し込み、自室から荷物を取ってきてジャックのもとへ行く。
教会へ行く途中、
「アレクセイ、竜を倒してくれる人募集中らしいぞ」
「知ってる。てか、言い方が軽いな」
「俺には関係ないからな。お前はどうすんだ? 『俺が姫を助けるんだ!』って意気込んでたじゃねーか」
俺はそんな恥ずかしい、出来もしないことを言っていたのか。
「俺にはそんなこと出来ないよ。国の討伐隊が返り討ちにあったんだぞ? 敵わないよ」
「ま、そうだよなー」
と、言っても不干渉を貫くわけではないが...。
教会に着いた俺たちは昨日と同じ席についた。ジャックは勉強を、そして俺は読書をしている。
読書をしているというのは表面上そう振舞っているだけで、頭では違うことを考えていた。要は今後の作戦会議だ。
何度も言うが、俺がこれからやることはどうにかして竜に囚われたテレーゼ姫の心を解放すること。手っ取り早く竜を殺そうにも、竜を殺せば姫さんが悲しむし、恐らくこの世界で竜を殺すのは無理だろう。『竜と姫』では腕に自信のある主人公が竜を討った。だがそんな主人公はこの世界にはおらず、いるのは少年期・青年期を勉強に費やしたインドア派司書だけなのだ。武力解決は望めない。
となると頼りになるのは...、知識か。頭脳派作戦でどうにかして竜を無力化。現状これくらいしか案はない。と言っても具体的な内容は全く決まっていないのだが。
そうだな.....、そういえば、竜はどうして姫さんを篭絡したんだったっけ。『竜と姫』の話の詳細を忘れてしまっている。これは痛手だな。
あとは心を奪うという行為、その方法だな。それによっては第三者の力でどうにか出来るかもしれないが.....、その方法が分からないから本末転倒なんだよな..。
八方塞がり。とりあえず首都に行くのも一つの手だな。情報収集をしないと、やれることも少ない。
結局俺は、とりあえず首都に向かうことにした。
その日家に戻った俺は、父親(仮)と母親(仮)を説き伏せて首都に向かうと告げた。学術的な探求のためという名目で。あまり自分の知性をひけらかすのは好きではないが、今は手段を選んでいる場合ではない。もし反対されても無理やり行くつもりだった。
ジャックや教会のシスターには一言、「明日、首都に行く」という主旨の話を伝えた。何やら驚き呆れる声をいただいたが関係ない。一刻も早くこの世界から脱するには多少強引にでも話を進めなくては。そう考えた結果だ。
資金は両親(仮)が出してくれた。実の両親ではない以上、申し訳なさは感じない。
俺はまだ、状況解決のスタート地点にすら立てていないのだ。情に流されている場合ではない。
俺は周りへの説明と身支度を済ませ、早々に寝た。
*
その晩の夢の中。
「お前もせっかちな男だな。思い立った次の日に都へ行こうとは。周りのヤツらの狼狽えっぷりといったら...面白かったのう」
「この世界の人たちは俺とは本来無関係の人たちですから。多少不自然な流れでも気にしません。というか、今日も夢の中で会いに来たんですか。睡眠中なのに意識が休まらないんですけど...」
「ハハっ、悪いな」
「...まあいいですけど」
「そうか...。だがお前さん、気をつけろよ? あそこは物語の世界。お前が気にしない強引な話運びも、読者に受け入れられなくては駄作だ。話の流れの善し悪しを決めるのは登場人物のお前ではなく、傍観者たる読者なんだから」
「...? どういう意味ですか?」
「ふふっ。さあな」
ソフィーはいたずらめいた笑みを見せて消えてしまった。
空と地が青と白に染まった世界に、俺一人が取り残された。
*
意識が覚醒する。
「はァ。ソフィーのあの言葉、どういうことだ?」
まあいい。さっさとこの村を出ていこう。
「あれ、カバンの中が空?」
昨夜準備した荷物が異様に軽い。中を開けてみると空だった。おかしいな...。
とりあえず準備し直して1階に降りる。
1階にいた父親(仮)と母親(仮)に一言声をかけて出ていこう。そう思った時...、
「アレクセイ、あんた朝ごはんくらい食べなさい!」
「あ、ああ」
母親(仮)からお叱りを受ける。朝ごはんくらい食べていくか。
卓につくと見覚えのあるメニュー。黒パン、目玉焼きにサラダ。まあ朝食なんて代わり映えがしないものか。
そう思い、手をつける。
「そういえば例の竜の討伐隊が壊滅状態で帰還したらしいな」
「あらそうなの...。大変ね」
「今日までに、方々から我こそは姫を救える猛者を集めているらしいぞ」
「そう...。政治にも影響出てるみたいだし、早くなんとかして欲しいわ」
(ん? この話昨日も.....)
その数分後、
「おはようございまーす。アレクセイ、そろそろ行くぞ」
ジャックがやって来た。
「そろそろ行くって...、行ったよな? 俺はもう首都に発つんだよ。見送りでもしてくれるのか?」
「――お前、何言ってんだ?」
「は?」
「そうだぞアレクセイ。まだ寝ぼけてるのなら顔でも洗ってこい」
父親(仮)もジャックに同調する。
「え、いや、昨日伝えただろ? 学究のため首都に行くって」
「――そんなの初耳だぞ?」
その言葉を聞き、俺は戦慄した。彼らと自分の噛み合わない会話に。
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