第11話 多すぎる不可解

セニルの第二研に行ったが無人だった。


何か理由があったわけでもない。だが俺はふと、いつも“あいつ”と話をする酒場に行ってみた。


(いた...。)


店内で見つけたオスカーに声をかける。


「.....おい、大丈夫か」

「...ああ、ミオか」

「お前の所の所長さん...」

「っ....、所長なわけないんだ。あの人は、少なくともカークって軍人がやられた日は研究所にずっといた。俺らはある研究が大詰めだったからな。夜明けまで一緒にいたんだよっ....!」

「それ、押し入ってきた奴らに言ったのか?」

「ああ。軍の調査団だろ?もちろん言ったさ」

「なら.....」

「あんなもの見つけられたら、誰も信じやしねーよ」

「あんなものって.....」

「あの動画だよ」

「.....でも、その日は確実にアリバイがあるんだろ?」

「そのはず...、なんだけど。俺だって映像を見たんだよ。映ってるのは確かに所長だった。あれは....、なんだったのか。俺には何が何だか.....」

「そういえば.....、所長は鋼化魔法とか...、あの辺の魔法を使えるのか?」

「多分無理だな。理論が実際に運用できるか検査するために、所長も一応魔法を使えるんだが.....」

「そうだったのか。それはすごいな」

「でも、鋼化魔法は出力できない。転移魔法なんて言うまでもなくだよ」

「.....所長が犯人だっていう要素が弱いな」

「だろ?」

「ああ。ただ、今はあのアイザックが釈放されたあとだからな。新たな容疑者は格好の的になるだろうよ。証拠云々より、アイザックに代わる形式上の容疑者が必要なんだろうな」

「チッ.....むかつくな」

「ああ」


オスカーと分かれた俺は図書館へ向かった。



――引っかかるな。やはり所長、エドワードはシロなのではないか?


だが、あの映像媒体がある。あれがある限りエドワードは疑惑の闇に葬られる。

真実がどちらであろうと。



図書室の研究室にはシオリさんが来ていた。


「遅かったな」

「シオリさん、朝刊見ましたか?」

「ああ。.....第二研に行っていたのか?」

「はい」


俺はオスカーが話していたことをシオリさんに伝えた。


「うむ...。確かにエドワードが犯人だという証拠は例の映像しかないが.....、実際彼が映っているのだから覆りようがないよな」

「でも、実際オスカー達と一緒にいたのにその時間、別の場所で監視法具に記録されている。明らかにおかしいですよね?」

「ああ。....そういえば、軍から報告があったのだが....」

「ん、何ですか?」

「カークの体内から発見されたテルムナイト塊なんだが...」

「やっぱり見つかったんですか。今度は腎臓とかですかね」

「脳だよ」

「えっ?」

「脳の一部、海馬の部分にテルムナイトが埋まっていた」

「脳って....、今まではトルソーからしか見つかりませんでしたよね」

「ああ。カークの件は異例中の異例だな」

「...ですね」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


真犯人への疑念が晴れないまま、その時が来た。



〝怪事件、ついに終止符〟


――エドワードは死刑判決を受け、執行は来週の週初めとなった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



3回目の会合、恐らくこれが最後の会になるだろう。


「――――――ることが――――――――」


オステインが何かを話しているが耳には入ってこない。


「――うだ、しか――――」


別の誰かが何かを話しているが頭に入ってこない。


「ありが――――れでよう――――――――――――――」


アイザックだろうか、謝辞を述べているようだが、ほとんど意識は向いていない。


いつの間にか会は終わっていた。


帰るか。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


廊下を歩きながら、ずっと考え事をしていた。


(このままでいいだろうか。エドワードが確実に犯人じゃないという証拠はないが、かといってオスカーの証言と映像の食い違いは引っかかる。それに今回の事件、何もかもが不鮮明すぎる。あの停滞状態の捜査の中、カークはどうやって代替魔法の情報を入手したのか。どうしてカークだけは脳に金属を埋められたのか。エドワードは鋼化魔法を使えないらしい、なら犯行の手口はまだ明らかではないのでは。なぜエドワードは引き抜いた映像媒体をまだ所持していたんだ、処分すればよかったのに。どうしてこうも分からないことが多いんだ...。このまま終わるのか、この事件。やはり皆、事件の解決を急ぐばかりに性急に犯人を決めてしまっているのではないか。いやそれとも俺の考えすぎか。友人の上司だから庇護しがちに考えているだけかも。それに..........、)



「おっと、君、ちゃんと前を向いて歩きたまえ」


「...すみま、せ、ん.......」


「.....?.....いや、次からは気をつけてくれ」




考え事をしていたからだろう。向かってきた人と肩を擦ってしまったらしい。


ただ...、


(.....やはりこの事件、まだなにかあるな)


俺の疑念は確証に至った。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



その晩、1人の人影が閉館した図書館の方に歩んでいく。



“そいつ”は二階の司書室に入った。鍵は...かかっていない。




“そいつ”は警戒しているのか、辺りを見渡している。




「来ましたね」


後ろから声をかけられ“そいつ”は驚きの反応を見せる。


「俺の仮説の答え合わせ、してもらっていいですか」


“そいつ”は訝しむようにこっちを見ている。


「そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。武力制裁なんて俺が貴方に敵うわけないし、この会話を録音しようなんて無粋な真似もしません」


“そいつ”はなおも、警戒態勢を解かない。


「.....はぁ。まあいいですよ」


今から話すことの物的証拠は何も無い。ただ確固たる証拠ならある。


「じゃあ、この事件に、“本当の”終止符を打ちましょうか」






「――アイザック将軍」


彼は警戒態勢を解いた。



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