第7話 事件概要

魔法適合者、それは人族においては稀有な才であり、綾どることができれば恵まれた待遇を受けることが約束される。優れた兵士、法具の設計開発、畏敬の対象等々、将来も様々だ。


「魔法適合者、それはすごいですね」

「しかも彼の場合、それを使いこなせることができる。将官という階級につけた所以もそれが一つだ」

「でもそれが、今回あだになった」

「そうだ...」


「そこで、君に一つお願いがあるのだが...」

「分かりました。良いですよ」

「.....。内容を言う前に快諾するな」

「それくらい前向きな返答をするつもりっていう意思表示ですよ」

「そうか。では、」

「はい」

「アイザックの無実を証明するために、今回の事件の調査団が作られた。私もメンバーに選ばれている。調査団とはいいながらも、個人での活動がメインなんだが...」

「はい」


「君に、私の手伝いで共に調査をしてもらいたいんだ」


「はい.....はい?!」


「そうか。受けてもらえるか、ありがとう」

「ちょっと待ってください、なんで俺なんですか? ていうか、軍が立てた団に俺が加わっていいんですか?」

「そうではない。君にはあくまで“私と共に”調査をしてほしいんだ。“団と共に”ではない」

「...つまり、俺個人がシオリさん個人に協力する、と?」

「そういうことだ」

「でもなぜです?」

「君の魔導書は情報収集には便利だからな。銀行強盗のことを鑑みても、乱用するのはやめた方が良さそうだが、いざというときにな」

「...危険じゃないです、よね?」

「危険だろうな。犯人がアイザックではないとすると、まだ殺人鬼はこの都にいることになる。調査をしていれば襲われることが無きにしもあらず、」

「.....俺、希少金属を体に埋め込まれて死ぬのは嫌です」

「大丈夫だ、私がついている。いざとなったら頼れ」

「.....シオリさん、男の俺よりカッコいいこと言ってどうするんですか」

「女の私としては、その言葉はあまり嬉しくないな」

「.....分かりました。やりますよ」

「ありがとう。助かるよ」


最近、司書らしからぬ事をするのが多くなった気がする。一体俺はどこへ向かっているのだろう。


「で、具体的にはどういう事を?」

「そうだな...。これまでの事件を見ても、場所、被害者に共通点は無いし規則性も無い。犯行は恐らく人気の少ない夜が主だろうから...」

「まさかしらみつぶしに?」

「そうなってしまうな。そもそも街の監視法具に犯行の様子や犯人らしき人物が映っていないことが異常なのだが...」

「そうなんですか?」

「ああ。今のところ、衛兵も雲をつかむような状態だ」

「...。これまでの犯行現場と被害者のリストってありますか?」

「ああ。.....これだ」

そう言ってシオリさんはバッグの中から書類の束を取り出し、差し出してきた。



――書類によると被害者は12人、二ヶ月前が3人、先月が6人で今月は今のところ3人。

被害者の年齢、職業、性別もバラバラ。貧民街の少年に貴族夫人、商人の男性に娼婦か...。確かに一貫性がない。

犯行の手口はやはり不明。被害者に外傷はないが、いずれも検死の際に体内から直径4インチ弱のテルムナイト塊が発見されている。

死因は出血性ショック、心停止系、心肺停止等々...、どうしてこれもバラバラなんだ?


資料を読み進めていくとあることに気づく。

死因が色々あるのはこれが原因か...。最初の被害者は脇腹付近にテルムナイト塊が、一部は皮膚から露呈していて、そこからの出血がひどかった。

だが最近の被害者は...、重要臓器が欠損? 代わりにその部位にテルムナイト塊、それで呼吸ができずに死んだ者がいるな...。

二ヶ月前は体の中心から外れた場所にテルムナイト塊が埋め込まれていた死体が多く、最近は重要臓器周辺にテルムナイト塊が見られている。


どういうことだ...?


このことについてシオリさんに聞いてみる。


「ホントだな。気づかなかった」

「そうですか。これ、どういうことだと思います?」

「分からんな。そもそもこのやり口の意味が分からない」

「確かに、なんでこんな奇妙な殺し方をするんだ...」

「真犯人はもしかしたら魔法適合者なのかもな」

「それは...、まあ有り得なくはないですけど...」

「監視法具に映らない事も説明できるしな」

「...、そういった魔法ってありましたっけ」

「ある。監視法具は微弱な魔法を発して、跳ね返ってきた様々な情報を認識する装置だからな。その監視法具が発する魔法を欺き、“自分がいない”という信号を受信させる認識阻害術は存在する」

「...、じゃあ肉眼では見えるんですね?」

「ああ。少なくとも、“その術を使用している時は”だがな」

「肉眼視認を阻害する魔法もある、と?」

「そうだ」

「真犯人が魔法適合者説は、ハズレであって欲しいですね」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



その日の業務を終えた俺は、久々に近くの宿に泊まった。シオリさんが「明日から活動を始める」と言ったので、気分転換したかったからだ。


図書館の仕事は当分お休みだ。シオリさんは公式に調査団のメンバーなので休みをとるのは当たり前だとして、俺もそれに倣っておいた。まあ、研究は滞ってしまうが、司書は俺たちだけではないので大丈夫だろう、許可はもらっておいた。



とりあえず宿の一室で一息ついた俺は、連続変死事件について考えてみることにした。


「犯人像はまだ全然だな。魔法を使用できる可能性あり。...、そういえば魔法じゃなくてもよくないか? 例えば最近関わった呪術とか...まあそのあたりの力が使えるか輩だな」

しかしこれではまったく絞り込めないだろう。マイノリティである魔法が使える人族ならまだしも、この国にはほかの種族だってたくさんいる。霊力や呪術が使えるかやつはたくさんいるはずだ。


「犯行現場、被害者、殺害方法は...、まだだめだな」

図書館で言った通り何もかも未知だ。


「あとは動機くらいだけど...」

金属埋めて人を殺すやつの気なんて知れないな。


「やっぱりこういう、何も分かっていない状況だと、俺の魔導書が便利なんだろうな」

戦闘向きじゃないのは正直不安だが、まあ昔の人は“ペンは剣より強し”なんて言ってたらしいしな。利用できるだけ利用しよう。


「今回も、面倒なことになりそうだ」

殺人鬼に殺される危険を冒して、成功報酬は断罪騎士の自由とか...、割に合わなすぎだろ。正直、断罪騎士なんてクサい名前のやつ、どうなってもいいんだがなぁ。


「あ、そうだ。オスカーに聞いてみるのもいいな」

あいつの所に、貴金属に関わる術について何か情報があるかも。明日あたりにでも訪ねてみるか。


そろそろ睡魔も襲ってきたので寝ることにした。


安全に事が済みますように...。

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