断罪騎士と変死体の論理
第6話 魔法、霊力、そして呪術
「あいつと会うのも久々だな」
研究所勤めの友人であるオスカーに会うために、俺はセニル街を歩いていた。
周りを見てみると、王立図書館がある城下より他種族が多い。
あ、あのエルフの子可愛いな。お! あそこにいるネコの獣人もいい。あの店の前にいる子は...霊魔族か? なんか背中から幾何学模様出てるし、神秘的な美しさだ。
心なしか、他種族の美人率というものが高い気がする。エルフや獣人は、一応人族だけど...。
友人に会うのは“交流”が目的だ。俺は司書をしながら文化や歴史の研究を、オスカーは研究所で魔法・霊力・呪術の研究をしており、それぞれの見識をプライベートで明かしあっているのだ。
お互い研究しているものは違うが、関わりがあるものもあるため、こうした定期的な交流を行っている。
そして今回会うのはそれとはもう一つ、特別にあいつに聞きたいことがあったからだ。
先日のアーノルド家の使用人、人の身でありながら魔族の禁術を使用したイレギュラーについて、あいつの意見を聞きたかった。
「さて、ここか」
研究所は白の漆喰で塗り固められたシンプルな外装だ。そして大きい。私立にも関わらず、王立の研究施設と同じくらいの功績を残しているあたり、流石と言えるだろう。
エントランスにいる職員に尋ね、オスカーを呼んでもらう。
2分後、彼がやってきた。
「ったく、よりにもよって忙しい時に来やがって」
「悪いな、その辺の店で待っとくよ」
「いやいい、とりあえずひと段落つけてきたところだから」
「そうか」
「ああ。んじゃ、どこか適当な所にでも入るか」
俺とオスカーは近くにあった酒場に入った。彼と会うときはいつも、近くにある適当な店に入り、話をする。この酒場は前にも2度ほど来たことがある。俺は酒を頼んだが、彼はジュースを選んだ。まだ勤務時間内だからだろう。
小一時間、お互いの研究について話したあと、俺は例の件についてきいてみた。
「話は変わるんだけどさ」
「ああ、なんだ?」
「俺ら人間が霊魔族の力って使えるか?」
「...急にどうした」
「いいから答えてくれよ」
「...まあ無理だな。少なくとも人道的な方法では」
「やっぱり脳を切り取るしかないのか?」
「お前、俺らがなんのために研究してるのか知っててそれ聞くか?」
「もちろん。他種族の術のメカニズムを解明して、自分たちの魔法で代用するためだろ?」
「そうだ。他種族の力は便利だが、使うには脳施術を行うしかない。だからこその俺たちの研究だ」
「だよな...」
「...どうした? 何かあったのか?」
「ああ、このことは他言無用で頼むんだが」
「お、おう」
「先日、元老院のひとりが死んだのは知ってるか?」
「...確か新聞に載ってたな。その使用人が主人を殺して、そのあと自分も自殺したっていうやつだろ?」
「それなんだが、実は俺、その場にいてだな」
「その場って、死体発見現場にってことか?」
「正確には使用人が死んだ瞬間だ」
「はァァァ!?」
彼が大声をあげたせいで店内の視線を集めてしまう。
ほんとこいつは、感情が表に出やすいな。俺みたいなやつは視線に耐性ないんだから勘弁してくれ。痛い、視線が刺さる。
「お、落ち着けって!」
「す、すまん」
「で、そりゃ一体どういうことだ。死体が見つかったのってその元老の家だったよな? なんでそもそもお前が元老の家にいたんだよ。」
「あぁ、実はな...」
俺はアーノルド邸で起きたことを話した。俺が魔導書を所持していることは伏せたので、図書館の保管庫に侵入した賊の調査ということだけを話して。まあ嘘はついていないからいいだろう。
「でも、その使用人の検死はあったんだろ?」
「まあな。大脳新皮質がなくなっていたよ」
「常套手段だな、そこを切除するっていうのは」
「そうらしいな」
「...じゃあなんでお前は俺にそのことを聞くんだ? 脳施術によるインフェクト・スペル使用ってのはもう分かってんだろ?」
「一応他の方法はないか聞こうと思ってな。お前のところでもまだ、インフェクト・スペルの魔法運用は出来てないのか?」
「そもそもあれは禁術だから研究禁止だっての。それに、あの術はかなり特殊なものだからな。たぶん呪術として使わないと無理だ」
「...だよな」
その後、俺らは店をあとにし彼の研究所に戻った。すると研究所の入口から出てくるひとりの男に会う。
「所長、今からお帰りですか?」
「あぁ、悪いが私用でな。先に帰らせてもらうよ」
「分かりました、お疲れ様です」
どうやらここの所長さんのようだ。年齢は40ほどだろうか、若いな。あとすごく強面の顔だ...。
「...お隣の方は君の友人かい?」
「はい、こいつは王立図書館で司書をやってるアレクセイです」
「あ、こ、こんにちは」
「こんにちは。あそこで司書か、なるほど。...っといけない、時間が無いんだった」
「引き止めてすみません、それでは」
「あぁ」
所長さんは行ってしまった。そういえば名前を聞いていなかった。まあいっか。
「結構怖そうな人だな」
「なかなか近寄り難い見た目だしな...ってお前も目つき悪いし人のこと言えねーよ」
「そうか?」
用事を済ませた俺は図書館に戻った。結局めぼしい情報は得られなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ただいまー...ってシオリさんまだいたんですか」
「私までいなくなっては誰が図書館の番をするというのだい」
「ですよね、すいません」
「じゃあ、私はそろそろ帰らせてもらうよ」
「分かりました。気をつけて」
「ありがとう、君もな」
シオリさんを見送ったあと僕は古書を読んで暇を潰した。
「はあ、そろそろ寝るか」
と、寝ようとした時ふと、机の上に置かれていた新聞が目に付く。
「そういや、今日の分まだ読んでなかったな」
〝変死体またも発見 今月で3人目〟
「またか、最近物騒だな」
犯人はまだ見つかっていない、か。
「...寝るか」
次の日の朝、シオリさんは図書館に来なかった。コンスタントにやってくる彼女にしては珍しい。昨日もいつも通り帰ったし、何かあったのだろうか。
その時、俺は昨日寝る前に読んだ新聞記事を思い出す。
「流石にそれは.....いや、でも」
気が気でないまま、その日の仕事を始めた。
彼女は昼過ぎにやってきた。
「遅れてすまない、軍から珍しく、緊急の招集があってな」
「よかった〜〜...」
「何がだ?」
「いや、最近あってる連続変死事件に何か関係あると思って」
「...なぜそれを知っているんだ?」
「え...? いや最近新聞によく載ってますし」
「そうではない。なぜ私がその事件を理由に軍から呼ばれたか知っているんだ、と聞いているんだ」
「そ、そうだったんですか?」
「?」
どうも話が噛み合ってない。
「えっと、俺は、シオリさんが朝来なかったのは事件の被害者になったからかと思い心配して...」
「ああ、そういうことか」
「はい」
「私の方が誤解していたようだ。すまないな」
「いえ...」
「君は、今日の昼刊を見たか?」
「...いえ、まだですけど」
「そうか...」
「何かあったんですか?」
「昨日の深夜、王立軍の少将のアイザックが連続変死事件の容疑者として捕まった」
「...そうなんですか」
「...反応薄いな。アイザックを知らないのか?」
「はい。軍の、しかも将官が殺人の容疑で捕まったってのはびっくりですけど、アイザックって人、有名なんですか?」
「...これを見たまえ」
そう言ってシオリさんが差し出したのは今日の昼刊だ。
〝断罪騎士、衝撃の逮捕!! 真実は如何に〟
「断罪、騎士?」
「アイザックの俗称だよ。あいつは王都で罪人を何人も検挙したり、遠征で各地の暴徒を鎮圧したり、とにかく不埒な輩を何人も監獄送りにしている。そこでついたあだ名が、」
「断罪騎士ですか」
「あぁ。弁舌も立つし、何よりその容姿で女性に人気だったんだ」
「...今、そいつ捕まってよかったと思いましたよ」
「不謹慎なことを言うな。これは軍の信用を損ねかねない、重大な事案なんだ」
「まさか...シオリさんもそいつにご執心なんですか?」
「まったく...君はぶれないな。あいつはキザな性格でな、私は苦手なんだよ」
「キザって...ますます気に入らないですね」
「...軍では彼の処遇について検討をしている。彼が犯人であると思っている者は一人もいないがな」
「そうなんですか?」
「ああ。実は昨晩も例の変死体が見つかっていて、その辺りを巡回していた衛兵が、近くでアイザックを見つけたんだ。夜遅くで、周辺には彼以外誰もいなかったから、逮捕されたってわけだ」
「へえ...」
「アイザックも偶然そこを通りかかっただけってこともあるだろうが...」
「ちょっと気になってたんですけど...殺害方法って分かってるんですか? 確か変死体って、体内から金属塊が見つかってるやつですよね?」
「まだ分かっていない。ただ...」
「ただ?」
「その犯行の手口が“分かっていないこと”と“特異なこと”が、彼が犯人では、という可能性を後押ししてしまっている」
「...どういうことですか?」
「死体の中から金属塊が見つかるなんて異常だろ? 死体に外傷はなし。しかもその金属は希少なテルムナイトときた」
「外傷がない? それって一体...」
「そう。殺害方法が分からず、しかも外傷なしの死体から金属塊が見つかっている。君はこの、非現実的な現象はどうやって起こったと考える?」
「.....そうですね、例えば魔法・霊力・呪術とか、」
「それだよ」
「え?」
「そんなありえない犯行、魔法の類で行われたとまず考える」
「...じゃあ、もしかして」
「ああ」
「アイザックは魔法適合者だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます