File15:待ち人

 身体は重りがついているかのように重く、そして感覚もへんだ。

 ゆっくりと目を開けるとそこは今朝見た天井。

 いつの間にかテントの中に運ばれたらしい。

 丁寧にベットの上で毛布までかけられてる。

 しかし、あの場所からは近くにテントはなかった。

 何処なのか考えていると胸ポケットに赤十字マークがついた軍服を着た男が入ってきた。

 男は俺を見て少し驚いた顔をする。

「目が覚めたのか、運ばれてきた時は見た目こそ重傷じゃなかったけどあばら骨がかなりやられててね。たいへんだったよ」

 男はコーヒーを片手に近くにある椅子に座りこむ。

 どうやら、この男が俺を直してくれたらしい。

「その、ここは?」

「ここはね、国境基地だよ。少し前に負傷者が一斉に運ばれてきて、君もその一人ってわけ」

 戦いにおいて負傷者は素早く処理すべき項目だ。

 傷が酷いと戦いから下げられることはよくある。

 一人でデカブツ相手に戦ったんだ、仕方ない。

 もし、この男がアオイなら説教で地球が一周してただろう。

 男はコーヒーを口に入れては話す、を繰り返す。

「特に君は一番酷くてね、他の人は火傷で済んでたのに。何かしでかしたのかい?」

「全長3メートルくらいのゴリラと鬼ごっこを」

「夢のような話だね、ほんと。これからは逃げることをお勧めするよ。次直せる保証がない」

「肝に免じておきます」

 俺は自分の体を見る。

 包帯が巻かれ、血が滲んでいるところもある。

 あれにこの程度の怪我で済んだなら奇跡といっても過言じゃないだろう。

 明日は聖書を熟読しなきゃな。

「さて、君は今後この作戦に戻れないと思う」

 前言撤回、神は死んだ。

「え、戻れないんですか!?」

「そりゃそうさ。その身体じゃ歩くのも辛いだろうしね。完治は終了間際くらいなんだよ」

「というと、どれくらいですか?」

「うーん......三ヶ月くらいかな?君タフそうだからまあ少し早いかも」

「そんなぁ...」

 向こうからしたら俺は戦闘狂にしか見えないのかもしれない。

 でも、俺にはやらなきゃいけないことがある。

「数日は安静。歩けるようになったら後方支援をしてもらうからよろしく」

 男はコーヒーを飲み干し、立ち去っていった。

 俺はズボンの第二ポケットから手紙を取り出す。

 丁度一年前くらい、朝の新聞を取ろうと玄関でポストを開いた時だ。

 新聞と一緒に一通の手紙が俺宛に届いていた。

 差出人は服部新蔵、俺の親父だ。

 親父は亡くなったと人伝に聞いていた俺は驚いた。

 悪趣味なイタズラじゃないかとも思った。

 俺は急いで封を切り、中身を確認した。

『アメリカへ来い』

 短くこの一言だけが書かれていた。

 その時からアメリカ奪還作戦が計画されているのを知っていた俺は志願しようと決意した。

 息子として、会わなきゃいけない。

 俺にとっては義務だった。

 しかし、この身体ではそれも果たせない。

 今は然るべき時まで回復を待つしかない。

 俺は手紙をしまい、目を瞑った。

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