File14:信念

 ジャックは勢いよく走りだす、標的はもちろんレン。

 3mも超える巨体が素早いスピードで当たればひとたまりもないだろう。

 しかし、レンはこれをあっさりと横に回避し、ジャックは通り過ぎていく。

 通過してすぐにレンは左手を近くの建物の屋上に向ける。

 左手にはフックショットが取り付けられており、これで高いところへの移動も楽だ。

 高さに限度はあるが、先ほどのビル群とは違いここから先は商業地となっており、建物の高さはそこまで高くない。

 ビル群はマンションなどの住宅地、そしてここは商業地、この辺りはひとつの場所に機能が固まっている地域なのだろう、運がよかった。

「しっかし、重てぇ……なんであいつはこんなもん平然と持ち歩けるんだよ」

 肩からタスキのように持てるバックの中を確認しながら呟き、背中に戻す。

 もう、こんなことする余裕などすぐになくなる。

 大きな音が後ろで鳴り、振り返る。

「ミツケタ」

 ジャックがジャンプして登ってきたようだ。

 ひとっとびで高さ6m程を登れる脚力とは恐れ入った。

「つくづく見た目に対して機能がブサイクだなお前はよっ!」

 レンは内ポケットから取り出した輸血パックを投げつけ、それがジャックの目に当たる。

 しかし、中に入っていたのは血ではなく泥だ。

「グア! オレノメガァ!」

「お前がああも正確に建物内にいる人間を捕まえられたのは壁越しに温度を目で探知できたからだ。その機能がなくなれば敵じゃないね!」

 ついでに弾丸を二発目に当ててやる。

 すると片目のみにひびが入り、目から光が失われる。

「オノレ……フンッ!」

「うお!?」

 ジャックは唸り、拳を地面にたたきつけて建物を倒壊させようとする。

 レンも立っているのがやっとですかさず次の建物に移る。

「破壊神だなありゃ……」

 ジャックもすぐに追ってくるので追いつかれないうちに別の建物へ。

 とにかく時間を稼ぎ、ジャックの目を自分にくぎ付けにする。

 そんな鬼ごっこは長く続かず、ジャックがほとんどの建物を壊しきってしまい、着地地点が道路のみになってしまった。

「まずい!」 

 レンはしまったと思い、慌てて地上に逃げる。

 発射したフックは地面に刺さり、移動する。

「コレガジャマダ!」

「まじかよ!?」

 ジャックがフックを掴み大きく進路が変更される。

 更に刺さったフックが抜けて放り投げられたような状態に。

 そのままコンクリートの地面に打ち付けられる。

 顔からではなかったが胸部に強烈な痛みが生じ、動くことができない。

「オマエ、シブトイ」

「全くだ、あまりの衝撃に何かに目覚めそうだ」

 ジャックがゆっくりと歩み寄ってくる。

 その大きさが恐怖心を強くし、体を硬直させようとする。

 なんとか足を動かし、建物の瓦礫を退けながら後ろに下がる。

「オマエノセイデ、ホカノヤツ、トリノガシタ」

「そのために飛び回ってたんだよ、わざわざ挑発的な言葉も使ってな。猛牛みてぇだ」

 まだ10m程距離があるが、走ってでもきたら終わりだ。

 やってほしくないが、慈悲は無いらしい。

「コナゴナニ、シテヤル!」

 ジャックはゆっくりと構え、走り出した。

 正面で見ると恐ろしさが倍増し、風がこっちに来る。

 もう終わり、誰もがそう思うだろう。

 だが、違う。

「粉々になんのは、お前だぁ!」

 事前にズボンのポケットにしまっておいたスイッチを押して頭を抱えて伏せる。

 瞬間、大きな爆発音が鳴り響き、細かくなった瓦礫の破片と熱風が押し寄せる。

 ジャックが丁度真上を通ったであろうタイミングで押したので奴はひとたまりもないはずだ。

 必死に目を瞑り、耐えて祈る。

 数秒後、上に飛んだ破片がパラパラと落ちてくる。

 頭を上げ、爆発の痕を見る。

「オ……オォ、ォ……ナ、ゼ……」

 青白く輝いていた奴の体は黒くなり、手や足が共に跡形もなく損壊している。

 まだ意識があるのが不自然なくらいだ。

「仕掛けておいたんだよ、動きつつな」

 レボーナフは提案として奴の破壊を考えた。

 しかし、ここには仲間が多く仕掛けることができない。

 そこでレンが囮になり、レボーナフが仲間の避難を援助することにした。

 まんまとはまり、仕掛けられるようになってから移動中に落として置き、後は誘い込むだけだった。

 しかし、投げ出される形になるとは思ってもいなく焦った。

 運が良かったことに落とした位置近くに自分も落とされたので破壊もできた。

「移動できなきゃお前は鉄くず同然だ」

「オッ、マエ!」

「さて、そろそろお開きといこうや」 

 レンはゆっくりと立ち上がり、電車でも使用した新兵器を取り出して起動する。

「ソレハ!?」

「お前ら機人を捌くための包丁、ヒートセイバーだ」

 ヒートセイバーは最高2000度まで跳ね上がり、機人の体を一刀両断できる唯一の刃物だ。

 持ち手はそれより融点が高い素材が使われているので問題ない。

 みるみると熱を帯び、色が赤くなり、刃先の周りの空間が歪む。

「ヤメロ! オレガハカイサレレバ、サラナルキジンガ、オマエタチヲ、コロシニクルゾ!?」

「もう来ただろ。それに」

 レンは背中に乗り、コアを入れる部分の蓋を開ける。

「あんだけ殺したんだ、破壊されても仕方ないだろ? な?」

「パ……」

「ッ!?」

「パパァッ!? ァ……ォァ……」

 コアに直接、力いっぱいヒートセイバーを刺し込む。

 機能が停止し、目の光が消え、音がなくなる。

 ヒートセイバーを引き抜き、スイッチを切ってしばらくしてからしまう。

 いつの間にか雨雲が空を覆っていたらしく、雨が降り始める。

 だが、その場から動けず雨に濡れる。

 一度後ろを振り向くと叩きつけられた仲間たちの死体が。

 ジャックの上で膝をつき、項垂れる。

「親父の……バカヤロウ……」

 嗚咽は雨音の中に消え、流された。

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