File13:赤い道

 デカブツはまずゆっくりと重々しい足を動かして近づいてきた。

 足が地に着くたびに杭を打ち込んだような跡が残り、力強さを表している。

「う、撃てぇ! とにかく撃つんだ!」

 震えてはいるがそこは軍人、しっかりと標準を合わせ引き金を引く。

 その場にいる全員が撃ち、弾丸は一体に集中する。

 しかし、それらははじかれるか大きな体に小さな窪みを作るのみ。

 他の機人とは違い装甲盤まで強化されているのだろう。

 本来なら四、五発当てれば装甲に穴が開き、そこからダメージを与えられる。

 しかし、五発で済まないのは目に見えてわかる。

 恐るべき点はまだ他にもあった。

「ジャック、ジュウキライ。ウッテクルヤツハコロス!」

 デカブツは力をためるような体制を取り、視線を近くの兵士に向ける。

 そして、その大きい体には似つかわしくないほどの速さで接近し、近くにいた男兵士を掴む。

 あまりの速さに反応もできず、手の中に入れられてしまった。

「嫌だ! 離せ!」

 捕まった男は嘆き、はみ出ている手で必死に抵抗しようとする。

 しかし、握力が強いのか痛みに耐えるのだけで精一杯であることが蒼白になりつつある顔で分かる。

「やめろ!」

 全員が手に集中して撃つが拘束が解けることはない。

 少しずつ力を込めているのか、男の苦痛の表情がより強さを増し、生々しい骨が砕ける音も聞こえてくる。

「グッ、アッアア……た、すけ……ぇ……ぇぇ……」

 男は口から血が流れ、抵抗などすでにできなくなっていた。

 目も上を向き戻ろうとしない。

「サイゴニヒトコト」

 デカブツは男を掴んでいる手を高く上げ、全員に嫌でも見えるようにする。

 この時には全員静かに震え、引き金を引くことができなかった。

 ただ、呆然と見ることしかできなかった。

 男はうっすらと笑みを浮かべ、口を動かし、言葉を放つ。

「誰か……俺を撃」

 言いかけた途中だった。

 デカブツの拳が強く握られ、男の骨と言う骨全てが砕け散り、声なき声を出す。

 そのまま拳は開かれ、生を感じなくなった古びた人形のように手元から男は小さな音を立てて落ちる。

「コイツヨワイ、ツマンナイ」

 デカブツは死体となった男を踏みつぶし、原型がなくなる。

 そこには足跡に血が流れ、赤で染まり、満たされる。

「ツギハ、ダレダ?」

 デカブツは熱しやすく冷めやすい、子供そのものだ。

 このままでは全員潰されかねない、何としてでも止めなければ。

「全員退避!! 速やかに建物内に入れ!!」

 レボーナフが指示を出し、全員が我に返る。

 素早くスモークだ焚かれて一斉に近くの建物内に入り、難を逃れようとする。

 幸いにもこの辺もビルが立ち並び、入れる場所が多い。

 俺とレボーナフも流れに乗じ、急いで避難する。

 しかし、煙の中でも奴は次々と仕留めている。

 叫び声と骨が砕かれる音で嫌でもわかる。

「奴は煙の中でも?俺たちが見えるのか!?」

「恐らく熱源探知機能だろう。機人にも搭載されていると聞くしな奴が建物ごと破壊してくるのも時間の問題だ」

「どうすりゃいいんだ……」

 俺は深く頭を悩ませながら唸る。

 ハッキリ言って望みは薄い状況だ、圧倒的な打開策を考えない以外道はない。

(焦るな、俺……考えるんだ!)

 冷静に考えたいが状況がそうさせてくれない。

 無情にも針は進み、叫びが聞こえ、錆びついた鉄のようなにおいが蔓延してくる。

 レボーナフが俺の背中を叩くので振り向く、何か妙案でも思いついたか。

「なあ、ハットリ。一つ提案なんだが……」



 ◇   ◇



「タノシイ! タノシイ!」

 ジャックは猿のように立ち並ぶビルからビルへ飛び移り、中にいる兵士を引きずりだして勢いよく地面に叩きつける。

 こうして地面は赤くなり、人は水風船が割れた後のような状態になる。

 煙も流れ、視界がくっきりと見えるようになってきた。

 ジャックは一通り終えたのか一度降りて自分の成果を確認する。

「ゲイジュツダ! ジャックスゴイ!」

 多くの人間が割れているさまを見て自分を褒め称える。

 しかし、本来地面に付しているはずの人間が一人だけ立っており、それも生きている。

 ジャックは疑問に思い少しづつ近づく。

 その正体はハットリその人だった。

 今まで逃げていた人間が不意に一人で外に出てきた、降伏の合図だろうか。

 しかし、武器を片手に持った彼に交渉しようとする気はなさそうだ。

「オマエ、ダレダ?」

「誰だと思う? 当てたらハワイに招待してやる」

 ジャックの目の色が赤から緑に変わる。

 これは目の前の人物を調べているのだ。

「オマエ……ハットリ・レン、ダナ」

「マジで当てやがった……ゴリラみたいなやつとハワイでハネムーンなんて最悪だぜ」

「ゴ、ゴリラダトォ!」

 彼は目の色を赤に変え、頭から蒸気まで噴き出す。

 煽りに対してあまり体制がないのだろう。

「オマエ、ジャックヲバカニシタナ!」

「おいおい勘違いすんなよ。俺はお前がゴリラに似てるとは思ってないさ、ただゴリラがお前に似てるんだよ」

「コノヤロウ……コロス!」

 ジャックは勢いよく走り、ハットリに迫る。

「さて、ゴリラ解体ショーの始まりだ!」

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