File12:Hell comes
十字路に向かう途中のことだった。
俺は他のメンバーを先に行くよう言っておき、レボーナフと連絡していた。
『再度連絡がきて出てみれば……爆破なんて派手なことするのか?』
「ああ、あんた何個か持ってただろ」
『俺の本職はボマーだからな、あるにはある。でも、わざわざする必要なんてあるのか?』
「実は少し奇妙な奴がいてな」
『奇妙な奴?』
「ドローンに映っていないのが一体だけいた」
『それはつまり、特別な個体ってことか?』
「たぶん。一度覗いた時にひと際デカいのが少しだけ見えたが、映像に映らないのは変だと思ってな」
『映像にのみ映らない……接眼迷彩かもしれないな』
接眼迷彩せつがんめいさい、肉眼では確認できるがカメラや双眼鏡と言ったレンズ越しでは姿を消すことができる特殊な迷彩だ。
これを用いるとスコープ越しには映らなくなり、肉眼でしか見えないため狙撃されにくくなる。
ナイトスコープなどにも映らないため、夜間での活動に重宝される。
液体塗料なので汎用性も高い。
「なら、狙われたくない重要な奴であることには間違いないな。でも、銃なんかで倒せる気がしないんだよ。そこで」
『ビルで踏みつぶしてスクラップにしてしまおうってわけか、めい案だな。早速やってみる』
「頼んだぞ、軍曹殿」
◇ ◇
突然の爆破で驚きはしたが、向こうの作戦が成功したのだろう。
殆どが下敷きになっており、所々に奴らの腕や足の破片が転がっている。
初の対峙、一時はどうなることかと肝を冷やした。
レフが士官学校を卒業しなかったのもうなずける。
「アマンダ、中にいる負傷者を運ぶぞ。そろそろ治療が終わっているはずだ」
「はい」
中に入り、負傷者に肩を貸して後ろまで下がる。
この往復を数回繰り返し、ようやく最後の一人になった。
「これで最後だ。戦える者は全員ビルの向こう側へ行け!」
怒号の如く室内に鳴り響き、手早く準備を終わらせる。
私は先に負傷者と安地へ向かった。
◇ ◇
「あれ……ない」
いつも大事にしまっていたロケットがポケットからなくなっている。
あたふたしていたせいで知らない間に落としてしまったんだ。
電気がなく、曇りなせいで室内が暗い。
「アオイ、どうしたの?」
気づいたのかアマンダさんが来る。
膝をついて探していた私に目線を合わせてくれる。
「ないんです、大事なロケットが」
「それは困ったわね。私も探しましょうか?」
「いえいえ! 自分で探しますのでアマンダさんは先に行っててください!」
「でも、早くした方が……」
アマンダさんに心配そうな目で見られる。
が、私の事で迷惑をかけるわけにもいかない。
「大丈夫、すぐ見つけますから」
「……わかった。私は前に行くから終わったらすぐ下がるのよ」
「はい!」
私はロケット探しを再開した。
◇ ◇
前方では後から来た奴と合流し、歓喜の声が上がり、祝砲まで撃つ奴もいる。
軽くお祭りムードだ。
「いやぁ、大したことなかったな!」
「言うほど俺たち倒してないけどな」
マクベスが踊らんかと動き、ニックが止めている。
皆新兵で初戦果が白星、喜ばないわけがないのだ。
「いやぁ、軍曹殿は流石だな! 俺の出る幕じゃなかった!」
「褒めすぎだよ、ハットリ」
俺もはしゃぎすぎの一員だ。
俺たちは倒れたビルを背にもたれ、水を飲む。
好スタートを切った記念だ。
これで脅威だったデカブツも処理できたし士気も高い。
この調子で戦えば数週間でダラス到着も夢じゃない。
「しかし、あっさりすぎだ」
「……というと?」
彼の目を見て悟り、顔から黄色をなくす。
「まだある、そんな気がする」
俺の体が少し揺れるのを感じる、武者震いなどではない。
「今、揺れたな。しかも後ろ」
「これは、まずいね」
徐々に揺れが大きくなり、激しく砕く音も聞こえる。
具体的に言うとコンクリートだ。
ここにいる全員が感じ取り、
二人の視線が重なり、お互いの武器を手に持つ。
大きく息を吸い、叫ぶ。
「まだ来るぞ!」
「ッッッッッッッッ!!!」
俺の声は機械の金属の軋むような言葉で表せない声でによって掻き消された。
咆哮ともとれるそれは耳を塞ぐが鮮明に聞えてくる。
下敷きになったはずのデカブツが生きている。
咆哮が止むとゆっくりとこちらを向き、倒れたビルを上がる。
怒りをあらわにしているのか目は赤く光り、蒸気が漏れてる。
そして、重々しく刺々しい口が開かれた。
「ヨクモ、ジャックヲオコラセタナ!」
それは今までの機人とは全く違うもので、機械らしさが全くない人の声。
全てが明らかに違う。
「な、なんだあれはぁ!?」
「機人に個別の名前があるなんて……」
驚き、皆銃口を向けいつでも撃てるようにする。
「ジャック、ニンゲンキライ! コロス!」
無垢で片言の喋り方、感情の激しさは子供。
怒らせてはいけないものを怒らせてしまったようだ。
俺とレボーナフは少しずつビルから急いで離れる。
寸のところで奴は降りてきて、辺りを見渡す。
「モクヒョウ、イッパイ。ジャック、ウレシイ」
奴は目と口を歪ませ笑顔になる。
地獄がやってきた。
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