File11:解体保険
現在、私は戦地に足を踏み入れました。
そして、兵士の皆さんの救護に当たっています。
「アマンダさん、包帯をもっとお願いします!」
「わかったわ!」
近くに建物があって尚且つ開いていたから治療できる時間と空間はある。
まだ始まったばかりだと言うのに犠牲者が出るなんて想像もしていなかった。
「全員回収終わったぞ!」
担架を持った衛生兵二人が戻ってきた。
数回あの中を往復したせいで汗が源泉のように吹き出し、体から水蒸気が出ている。
「敵の様子は?」
「少しずつですが前進してます。ここにたどり着くのも時間の問題です」
「ふむ……」
同じ場所に逃げ込んだザックトルテ少佐が深く考え込んでいる。
想定外で焦っているのだろう。
「事前に調べた時にはここから5km先にいたはずだが……AIも侮れんな」
決意したのか、被っていたベレー帽を一度外し、汗を拭く。
そして全員に聞こえるよう言う。
「ここにいてはいずれやられる。けが人を優先に移動するぞ!」
「イエッサー!!」
立てる者は肩を借り、立てない者は担架に乗せられて移動を始める。
ここはビルやお店が立ち並んでいるため、坂道とはいえ路地を通れば後ろに下がれる。
「後退を支援するぞ! アマンダ、お前も来い!」
「了解。サクラさん、これを」
彼女はそう言うと包帯を手渡ししてくれる。
「あなたは皆を救う女神よ、がんばって」
彼女は立てかけていた彼女のライフルを持って少佐と共に表に出ていった。
「……やらなきゃ」
一人でも多く救い、故郷の土を踏ませてあげる。
それが私たちの役目だから。
◇ ◇
「さて、十字路までもうすぐだぜ兄弟。準備はできたか?」
「銃なんざ俺にとっちゃ不安要素でしかない。でも、引き金引けなきゃ軍人失格だからな」
俺は目的の十字路に行くまでにマクベスにハンドガンを受け取った。
断ろうとも考えたが、あの集団に近接だけじゃ自殺行為でしかない。
俺はアメコミの主人公や日本のライトノベルという小説ジャンルの主人公のように強くはない。
それこそ、ゲーム世界のように自由自裁に動けない。
用心深くいかないと命はいくつあっても足りないだろう。
そう思い、素直に受け取った。
「そういえば、さっきレボーナフ軍曹に再度連絡してましたが、いったい何を?」
オードは素直に気になったことを質問してくる。
「ああ、念のため保険をね」
「はあ……」
左程の事だったのか、そこで会話は終わった。
路地を進んで数分、大きく開けた景色が見えた。
件くだんの十字路だ。
顔を覗かせると大量の機人の背中が見える。
中にはひと際大きいのが一体。
「あれは……」
オードが双眼鏡越しに見る。
「恐らく、機人の指揮を行っています。ゴリアテ、と言うべきでしょうか」
「でけぇ……ニックの二、三倍はあるぞ」
「マクベス、俺をものさしにすんじゃねぇ」
マクベスが圧巻されるのも無理ない。
体長はおよそ三メートル、重りのような足がコンクリートの地面にヒビを付け、恐竜の足跡のように残っている。
人型というにはだいぶ体が丸く、ゴリラが近いだろう。
昨日見せられた画像に映っていたもののひとつに間違いない。
「あんなの倒せんのかよ?」
「どうだろ、無理かもしれないな」
画像で見たときはもう少し小さく見えたが、予想以上のサイズだ。
戦車でも持ってこない限り勝機は薄い。
「イルザ、上に着いたか?」
「ええ、いつでもOK」
イルザには事前に屋上から狙撃できる配置に着くよう命令していた。
下では俺含めた前線組三人で挑む。
「まあ、やれるだけやろう。レフもすぐ来るだろうし奇襲開始だ!」
「おう!!」
俺たちはまず手榴弾を投げつけ、それから発砲する。
相手は突然の銃撃のため遅れて反撃するが手榴弾で数体吹き飛ぶ。
金属片が金属板の隙間に入り、神経が切れるものまでいる。
初手は大成功だが、相手は数が多いため気づかれれば身を隠すのみだ。
しかし、今は機人にとって前方にも敵がいる。
先ほど少佐を筆頭に打ち合いをしているというのを聞いた。
これは挟み撃ちでもあるんだ、不利にはならない。
仮に路地に逃げてもイルザやレボーナフの方にいり仲間が逃げた奴を倒してくれる。
相手にとって逃げ場はない状況だ。
少しずつ数を減らすのを待つしかないのだ。
「クソッ! あのデカブツには全く通らねぇぞ! のろまなのも納得だ!」
「砲のない自走砲だといいが……隊長、秘策はないのか?」
「あるが……お、きたきた!」
レボーナフがようやく姿を現した。
レボーナフもこちらに気づき、無線が飛んでくる。
「遅かったじゃんぇか」
『ヒーローは遅れてやってくるって言うだろ? 場所の計算に時間がかかってね』
「あいつらは止まってる、やるなら今だ」
『了解! みんな離れて伏せろ!』
彼からの無線が切れる。
最後の言葉は全員に伝わっているので、銃声が止む。
「何が始まるんです?」
オードはまた素直に気になったことを質問してくる。
俺は自然と勝利の色がこもり、口をニヤッとさせる。
「解体だ」
突如、大きな爆発音が鳴り響く。
同時にビルのひとつが傾き、少しずつ迫ってくる。
影はみるみる大きくなり、機人たちから光を奪う。
そして、奴らは何tもあろうコンクリートの塊に踏みつぶされた。
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